ビジネス書大好きMBAホルダーが教える私の学びシェア

本を読んでそこから新しい知識を得たり、学んだりすることが大好き。学びたい、成長したいという意欲のあるビジネスマンの皆さん、一緒に成長しましょう。

店舗もチャネルの1つでしかない、「個客」を中心にしたチャネル展開のデザインができるか否かが問われている。 奥谷孝司・岩井琢磨/世界最先端のマーケティング

奥谷さん、岩井さんの早稲田ビジネススクールコンビが出した著作。
タイトルと表紙がちょっと地味というか、キャッチーさに欠ける部分があるものの、
内容は、実に堅実な分析。

奥谷さんを見ていると、実務家として最前線で戦いながら、
嗜好としてはアカデミアンな側面をお持ちな印象で、本書にもその感じが出ている。
(もちろんいい意味で)


世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

オンライン企業のオフライン進出

本書で一貫しているのは、オンライン企業のオフライン進出を、
単なる実店舗運営とは異なる視点での展開と分析しているところ。
それは単なるマルチチャネル展開ではなくて、チャネルシフト戦略なのだ、と。

「チャネルシフト戦略」とは、
1.オンラインを起点としてオフラインに進出し、
2.顧客とのつながりを創り出すことによって、
3.マーケティング要素自体を変革しようとする
戦い方である。
P.2

アパレル業界で例に出ていたBONOBOSは、
顧客が事前にオンラインで商品をセレクトし、そのフィッティングと購入に店舗に訪れるというもの。
従来のショールミングとも異なるオフライン店舗の活用方法。

また、「店舗スペースの効率化」も実現している。従来のアパレル店舗では、ある程度の余剰を見込み、店舗には相当量の在庫を持っている。しかし、ボノボスは店頭在庫が少なくて済むため、店舗のすべてのスペースを、顧客の体験のための空間として使い切ることができる。結果的に好立地の店舗でも、在庫のための保管スペースにかかるコストを抑えることができる。
P.49

実際自分も、最近オンラインECサイトの実店舗をオフライン展開するプロジェクトに関わっているのだが、
店頭ストックのスペース確保と在庫管理は適正とは程遠いレベルで非効率。
全く異なった発想でオフライン店舗のあり方を考えた方が面白いことができそうだ。

実際、EC側でほしい商品を指定してもらい、店舗でリアルに試着体験みたいなオペレーションを
どう実現するかを考えた方がやる意味ありそう。

スーパー、生鮮食品の小売業態の変化

AmazonGoのような無人店舗の話題が盛り上がっているが、
店頭で実際に商品を見ながら、アプリでコードをスキャンすると、決済および、自宅に配送してくれるという
なんとも近未来なスーパーがすでに中国には実在する。

アリババ(阿里巴巴)が出資する中国の食品スーパー、ヘマーセンシェン(食馬鮮生)だ。ヘマーセンシェンのオフライン店舗を訪れた顧客は、スマートフォン向けに提供されているアプリを立ち上げ、店頭で商品の値札をスキャンしていく。スマートフォンGPS(全地球測位システム)を活用し、顧客がいる店舗を特定して、その在庫が表示されるようになっている。支払いは、アリババが提供する電子マネーのアリペイで完了する。これによってヘマーセンシェンは、顧客と購入データを紐付けて把握できる。購入した商品は、そのまま店舗で受け取ることもできるが、宅配も選択可能だ。しかも店舗から5キロメートルまでなら30分以内に届ける、というサービスを展開してる。

小売の、特にオフライン店舗の役割が劇的に変化してきていること、
そして日本は結構遅れ気味だということがこれを見るとよくわかる。

いわゆるファッションビルとか百貨店に関していうと、テナントがオンラインへ誘導することを禁じる傾向が強い。
オンライン、オフラインのシームレスな連携をテナントに禁じるというレガシーな流通が変化の足を引っ張っている。
紙の本と電子書籍の関係もまた、旧態依然としたレガシーな流通(とその流通への配慮、無駄な忖度)が足を引っ張っている好例。

変化したのは店舗ではなく、顧客管理

クロスチャネルとオムニチャネルでは、顧客接点である店舗は何も変化していないということである。変化したのは店舗ではなく、顧客管理である。つまりシングルチャネルからクロスチャネルまでは「店舗を軸に顧客の管理を行っている」のに対して、オムニチャネルからは「顧客を軸にチャネルの管理を行う」ことになる。これは、大きなパラダイム・シフトである。
P.102

オムニチャネルは、つまるところ顧客管理なのよね。顧客を中心にタッチポイントを全て把握し、活用しようという試み。

したがって、顧客を軸にチャネルを統制するのであれば、来店前の情報チャネルや、購入した後の接点も含めて考える必要がある。店舗はもはや、顧客の買い物行動における、1つの通過点に過ぎない。顧客の選択に影響を与える、店舗・アプリ・商品・メディア・SNS、その全てが情報であり、チャネルであると考えねばならない。顧客の買い物行動を軸として、これらのチャネルを配置、連動させるという視点が必要になる。
P.105

この顧客管理を中心に考える考え方って、通販業界では当たり前のものだし、何十年も前からやってきた知見が詰まってる。
普通の企業が顧客データが集まるようになったもんだから、カタログ通販会社がやってきたようなことが
より大きなスケールで話題になっているという印象。

だから、今は何かと厳しいカタログ通販の会社の人とか、転職する好機だと思うよ。
今まで顧客情報を直接管理できなかった人たちが、CRMぽいことをやりたがってる時代なんだから。

顧客管理におけるアプリとID-POSの違い

購買情報を取得するだけであれば、ポイントカードを軸にしたID-POSで事足りる。
ただ、それだと片手落ちなのよね。
入手したデータをもとにこちらからアプローチできる双方向性こそが重要なポイント。
直接顧客にアプローチしづらいID-POSではダメなのよ。

アプリの大きなメリットとして「コミュニケーションの容易性」がある。ID-POSでも、顧客が何を買ったのか、どんな商品が好みかは確かにわかる。しかしそこで獲得できるのは、いわば「購入データ」という「点」に過ぎない。カードホルダーの顧客へのコミュニケーションはダイレクトメールや、せいぜいeメールだ。つまり購入データだけを取っても、顧客との対話が生まれないのだ。対話が生まれなければ、顧客とのエンゲージメントは深まらない。
P.167

そして、社内に散らばっているユーザーのID(ミニCRM)の統合をという話になるんだけど、
これが最もハードル高い領域。
部署によって、てんでバラバラに顧客情報を持ってたりするんだよね。
それらを会社として1つに統合する意義はとても大きいんだけど、よほどのトップダウンがない限り動かない。
でも、やるとなったら、統合させるメリット、インsんセンティ部をしっかりユーザーに用意してあげることが大切。

もちろん、MUJI Passportのユーザーが全員IDの紐付けをしてくれるわけではない。実際の結果は、各IDごとにせいぜい20〜30%程度の統合率だった。それでもマーケティング上は大きな意味がある。ある程度の母集団が出来上がるので、統計的な分析に値するデータとなるのだ。
P.173

ちなみんこのMUJI Passportで20〜30%というさらっと書かれている数字こそ実務家は痺れる数字なんじゃないだろうか。
こういう具体的な数字ってなかなか表に出てこないんだよね。
ID統合しましょうって時に、どこらへんが落とし所なのかも想像つかないわけよ。
そこにMUJI Passportで20〜30%というファクトがあると、1つの指針になるわけ。
こういう数字こそ、実務薄める上では一番役に立つ。

配送サービスレベル

日本通信販売協会JADMA)が、2013年に会員社12社の顧客を対象に実施した「配送満足度調査」のデータは、顧客の「本音」が見えていて興味深い。そこで顧客が求めている配送サービスへの希望を見ると、「配達時間の指定」が68%、「配達日指定」が62%と、配達日時間指定に関する要望が高い。その一方で、「当日配送」は4%、「翌日配送」は9%と予想外に低いのだ。
P.214

これ、とても大事なところ。
Amazonの影響もあってだけど、早く届くことに注力しすぎになってしまったと思う。
結果的に物流会社の現場を疲弊させ、値上げへ。
回り回って自分たちの首を絞める展開になってしまっているが、
顧客はそこまですぐ届くことを重視しているわけではないのだ。

まだまだ宅配ボックスの普及も進んでおらず、大多数の人にとって、荷物を受け取ること自体が面倒であって、
時間や日付を決めてきてくれる方がよっぽど楽なんだろうぁ。

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

生産性をあげるってどうすりゃいいの?という人はまずこれを読む。 沢渡あまね/チームの生産性をあげる。

文字通り、チームの生産性をあげるためのノウハウをまとめた本。

働き方改革が叫ばれているけれど、単純に残業禁止、とかしてもどこかにしわ寄せがいく。
ある人は持ち帰って家で仕事をして帳尻を合わせざるを得ないかもしれないし、、、。
タイムカード上の労働時間を削ったからといってそれすなわち働き方改革、生産性向上とは限らないということ。

そもそも業務フローから丁寧に見直していくべきよね、
そしてそれはこうやってやるといいよ、という具体的メソッドがまとまっている本なので、
見よう見まねで取り組んでみやすい内容になっている。

チームの生産性をあげる。―――業務改善士が教える68の具体策

チームの生産性をあげる。―――業務改善士が教える68の具体策

業務の見える化

たった3つのドキュメントを整備するだけ。
①業務一覧
②インシデント管理簿
③年間業務スケジュール表

この3つを整備するだけで業務を見える化できる。
で、作ったリストをメンバーみんなで確認。
そうすると、私たちの業務ってこれだけ??っていう違和感が発生する。
そっからが本番。隠れた業務の洗い出しをして、違和感の消えたリストができあがれば、
それが改善の元になる業務リストのできあがり。

そのとき、発生頻度を測定することも重要。
結構多い、かなり多い、みたいなあいまいなこと言うこと多いけど、
それが実際、どういう頻度で何回起きているのか、数えてみると案外少なかったりする。
思い込みは厳禁。

人は目先の仕事に対応したがる

本来の仕事、やるべき仕事よりも、割り込んできたインシデントの対応を優先してしまう。
これは本当によくあること。そして目の前の仕事でいっぱいいっぱいになって、忙しい、忙しいとなってしまう。
忙しいから○○できない、などとなるともう末期症状。

だからこそ、こういった都度発生する作業を管理することが重要。
いかにそれが生産性を下げているのか、対応方法、処理方針を決めてあげないと、
個人の判断では目の前のことに引きづられる。

そして、そうやってオペレーション全体を見て考える視点を持っている人が少なすぎる。
なので、リーダー格にはこれ読ませようかな、と思った今日この頃です。

チームの生産性をあげる。―――業務改善士が教える68の具体策

チームの生産性をあげる。―――業務改善士が教える68の具体策

片付けたい仕事を解決するために、顧客は商品を雇用する!! クレイトン・M・クリステンセン/ジョブ理論

イノベーションのジレンマ』で有名なクリステンセン教授が満を持して出したのがこの『ジョブ理論』。
本としてまとめるのに時間はかかったけど、ずいぶん前から構想としてはあって、
ここに紹介されるようなエピソードも断片的に流布していたように思う。

結局、あらゆるKPIを設定して数値管理しようとしてもそんなにうまくイノベーションなんて起きないよね、と。
大切なのはいわゆるインサイトで、顧客が本当に望んでいるニーズを発見できるかなんだよ、と。
で、顧客のニーズってのはそもそも顧客自身もわかってないことも多い。
それをどう見つけるのか、その考え方を教えてくれる本。

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位!  ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位! ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

  • 作者: クレイトン M クリステンセン,タディホール,カレンディロン,デイビッド S ダンカン,依田光江
  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
  • 発売日: 2017/08/01
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログ (4件) を見る

片付けたいジョブはなに?

魔法の言葉、「顧客が片付けたいジョブは何なのか??」
そのジョブを片付けるために、顧客は商品・サービスを雇用しているんだ、という整理の仕方をすることで、
商品が果たしている役割や期待されている機能に今まで気づかなかった側面が現れてくる、というもの。

ただ、ジョブは「状況」と密接な関係がある。

ジョブの定義には「状況」が含まれる。ジョブはそれが生じた特定の文脈に関連してのみ定義することができ、
同じように、有効な解決策も特定の文脈に関連してのみもたらすことができる。
P.59

状況によって顧客が片付けたいジョブは違う。

有名なミルクシェイクの話は本書でも出てくるのだけど、
朝の通勤時間にミルクシェイクを買う人は朝の通勤時、運転しながら飲めて、腹持ちがして、長い時間楽しめるものを求めているけれど、
夕方子供に買い与えるときは、優しい父親像を求めてるってな話。
同じ商品でもこれだけ状況によって片付けたいジョブは異なる。

ミルクシェイクをもっと売りたいと考えた場合に、探す方法はひとつではないということになる。”ひとつですべてを満たす”万能の解決策は結果的に何ひとつ満たさないのだ。
P.36

でもそういう真のニーズは消費者自身が自覚しているかというと、
必ずしもそうではないのだ。

多くの企業は、どうすれば自社製品がもっと魅力的になるかを消費者に訊くという危なっかしい策に手を出している。もっと速く?もっと色鮮やかに?もっと安く?あるいは、すでにつくり上げたものをただ変更するとか、業界の共通認識となったカテゴリの定義をそのまま踏襲するだけでいいと考える企業もある。その時点で、消費者にとっての本物のジョブを発見する機会を手放しているといえる。
P.142


*感情の動きと不安

ある男性が、コストコマットレスを買った。
その人にインタビューした結果見えてくる購入の経緯。
データ上は一見衝動買いにしか見えないこの行動の裏には1年に及ぶ不満や葛藤があったという話。

コストコでの行動だけを見れば、彼は衝動買いの客に分類されるかもしれない。そして、人はマットレスを衝動買いする、というマーケティング分析の一例にされてしまうかもしれない。しかし実際には、彼は1年前から考え続けていた。
(中略)
新しいマットレスを雇用したい気持ちより、古いマットレスを解雇したい気持ちのほうがはるかに強かった。そしてあの日、ついに我慢が切れたのだ。
P.181 - P.183

購買行動の裏にある消費者心理を考えないとだめよね。
数字だけ追っかけててもそれは見えてこないのよ。

これは購買データを分析する人たちは皆、肝に銘じておいた方がいい。
購買行動は1つ1つが単なる数字ではなく、人間臭い行動なんだってこと。
購買者数、ユニークユーザー、DAU、MAU、アクティブユーザー、
KPIとか言って見た気になってるそういう数字の裏側を考えないといけないのよ。

そういう意味では定量も定性もどっちも重要なのよね。
定量データだけには限界がある。

また、シェイクの話のように同じ商品であっても、顧客が置かれた状況によって、
片付けたい仕事は変わる。つまり商品を雇用する理由が変わる。

だからこそ、状況が重要。
モグラ的なセグメントを越えて、状況で捉える必要があるよね。
でもこの状況で顧客を把握するって、すげー難しいよなぁ、とも思う。

カスタマージャーニー的な落とし込みは顧客の状況の整理には役に立つ気がするけれど、
カートに残したままの商品があるからカート落ちメール流しましょう、
ほらコンバージョンが上がりましたみたいなアプローチは、
顧客の片付けたい仕事、っていう文脈とは全く関係ない。

それだと結局、大して魅力的なジャーニーにはならんだろうね、ってことなのよ。
最終的にはカスタマーには素敵なジャーニーを提供したい、と皆思っているはずなのにね。

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位!  ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

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参考文献リストがあったら最高だよな、そういうインタビュー読みたい。 佐藤航陽/お金2.0

大ヒット飛ばしまくりの編集者箕輪さんが手がける話題の本。
著者はメタップスの社長さん。

お金をテーマに扱いながら、人の欲求、組織を活性化させる仕掛け、
脳の話、などよくもまぁこれだけの内容をこんなにコンパクトにまとめたなぁ、という本。

冗長で無駄な箇所ってのがほぼないかなり濃密な内容。

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

読んでいると、佐藤さんの読書量とか思考の量に思いを馳せてしまう。
本を読み、考える、ってことをし続けてきた方なんだな、と。

だからこの本には参考文献リストがあったら超面白いのに、って思ったな。

内容は、もう自分で買って読んだ方がいいよね、要約とか抜粋できるような性質の本じゃないんだよね。

こういうの読むと本て、本当に安いな、と思う。

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

ビジョナリーが見ている未来の一端に触れると、凡庸な私でもワクワクしてくる。 落合陽一/魔法の世紀

著作も読まずに勝手に親近感を覚えて応援していた落合陽一氏の著作をいまさらだけど拝読!

宇野常寛責任編集のメールマガジンを書籍化したものなんだけど、
彼を見出し、著作という形で世に送り出したのは宇野常寛氏だったのかぁ、と。

なんというか、若き俊英たちって感じがするな。

魔法の世紀

魔法の世紀

映像の世紀と魔法の世紀

20世紀は映像の世紀
映像が共通体験だった時代。
映画館のスクリーンを観客が皆見ている(1つのディスプレイを皆が見ている)世界。
でももう、今は違う、手元のスマホを見てる。
そこに表示されてるものは個々人によって異なる。
映像という共通の媒介を通さずに直接繋がれる。
それはもう、19世紀的な映像の世紀とは異なる。

で、魔法ってなんだ?ってことなんだけど
魔法は要するに仕組みや原理はわからないけど今そこにある現象、なんだよね。
で、複雑怪奇な現代においては、仕組みは複雑すぎて理解できないけれど、
実現していることがそこかしこにある。

それって魔術的だって話。
近代化は脱魔術化で迷信から科学へというシフトだったのだけど、
今は社会を成立させる仕組みを理解できないまま、そして理解する必要もなく、
生きていける社会になっている、その変化をモリス・バーマンという人は再魔術化と言ったのだそうだ。

そういわれると、魔法の世紀ってのが腑に落ちる。
現代社会には魔法がたくさん溢れている。

ユビキタス・コンピューティング

いつでもどこでも、が強調されすぎたと落合氏は言っている。
いつでもどこでもデバイスが使える、ということよりも、
バイスの存在そのものが意識されなくなる、というニュアンスこそが重要だと。

呼んでいて感じたのはデバイスやテクノロジーが溶けていく感覚なんだと思う。
バイスはデバイスとして意識されている時点で未成熟という考え方。

バイスや技術を意識しなくなっていく、魔術化がどんどん進んでいく。
Amazon echoとかSiriとかGoogle Homeとか音声インターフェースも、
使ってみると、なんか少しデバイスが溶けてる感を感じるんだよね。

この感覚がもっともっと進んでいくんだろうなぁ。

ショッピングモールとマクロス

かつては田舎の非文化的施設の象徴であったショッピングモールが、いまやその中ですべてが完結する存在になっている。
人類が宇宙に旅立つときはショッピングモールを打ち上げればOKというのは秀逸な例えだなぁ、と妙に感心してしまった。

デジタルの色

デジタル慣れしている世代はきれいな青と赤に慣れすぎている、という話。
これも非常に面白い話。

光は混ぜると白になるけど、絵の具は混ぜると黒になる、
だからディスプレイでずっと色を見てきた世代はきれいな(=明るい)青と赤に慣れすぎてるってこと。

この光と絵の具の性質の違いって昔印象的だったのは美術の話として聞いたときだったことを思い出す。
絵の具は混ぜると暗くなる、だから印象派は混ぜた色を塗るんじゃなくて、色彩分割して目で色(=光)を混ぜたんだって話。

そのときも光と絵の具の違いから印象派の話への流れが巧みですごく腑に落ちたのを覚えている。

もう記憶が曖昧だけど、高階秀爾の『20世紀美術』の一節だったかなぁ。
すぐに調べることができないのでうろ覚えなのだけど、
万が一違ったとしても、この『20世紀美術』は名著なので未読の方にはお勧め。

20世紀美術 (ちくま学芸文庫)

20世紀美術 (ちくま学芸文庫)

いずれにせよ、落合氏はちょっとしたコラムも示唆に富んでいて面白い。
そして頭いいから話がすごくわかりやすい。

魔法の世紀とデジタルネイチャー

人に合わせて作られていたデバイスやメディアが人を超越していく。
そこにはものすごい可能性がある気がするし、面白そうでわくわくする。
なんかこう、久しぶりにビジョナリーだなぁ、という衝撃を受けました。

映像の世紀」とは、人間に指針を合わせてメディアを設計する時代でした。しかし、「魔法の世紀」では人間の感覚を超越した設計を行うことで、メディアが物質的世界自体をプログラミングできるようになります。そして僕は、コンピュータが制御するモノとモノ、あるいは場と場の新しい相互関係によって作られ、人間とコンピュータの区別なくそれらが一体として存在すると考える新しい自然観そしてその性質を「デジタルネイチャー」と呼んでいます。
P.179

魔法の世紀

魔法の世紀

ユニクロは凄い企業だと思うし、柳井社長も名経営者だとは思うけれど、それでもこういった実態を潰せないというのはものすごくリアルで学びの多い話。 横田増生/ユニクロ潜入一年

タイトルそのまんま、ユニクロにアルバイトとして潜入したルポ。
一代でグローバルに展開するSPA企業として大成長したユニクロは、
ビジネススクールにおいても注目される輝かしい企業の筆頭。

社長の柳井さんはカリスマ経営者としての世評も高い。

そんな輝かしい企業の実態を調査するべくの潜入調査なのだが、この潜入には前段がある。

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年

潜入の経緯

元々横田氏はこの本の前に1冊ユニクロのブラックな実態を暴露する
ユニクロ帝国の光と影』を上梓している。

ここで暴露されたサービス残業などのブラックな実態に対して、
柳井社長は激怒、事実と違うと文芸春秋名誉毀損の訴訟を起こしている。

さらにユニクロはブラックだと言う批判に対して、
柳井社長はとあるインタビューで
そういった批判をしてくる人はユニクロのことを全然わかっていない、と
「うちの会社で働いてみてほしい」と発言。

これを柳井社長からの招待状だと考え一年の潜入取材を敢行した、という経緯があるのだ。

まぁ、口では働いてみろと言っても素直に正面から働きに行って採用してくれるわけもなく、
著者は離婚し、再婚して妻の姓になると言う合法的改名(!)をした上で、
ユニクロのアルバイトに応募、正規の採用ルートを経てアルバイトとしての勤務が始まる。

ブラック批判に関して

ユニクロのブラック批判は主に国内店舗のサービス残業の実態や、
発注先の海外工場の劣悪な労働環境などに批判の矛先が向いているのだが、
今回潜入ルポでフィーチャーされるのは店舗運営の実態だ。

ちなみに、前著に対して事実と異なるとして名誉毀損の訴訟を起こしたものの、
裁判でユニクロは敗訴、記事の内容に虚偽はない、という判決が下っている。

ただ、色々ありつつもユニクロが改善しようとしていることもわかる。
ただ、改善し切れていない実態があることもまたわかる。

店舗のサービス残業はブラック批判に晒されて当然だと思うのだが、
工場を持たないファブレス企業に対して、海外の発注先工場の労働環境問題を
どこまで責任を持たなければいけないのか、という話はあるよね、と思う。

そもそもそういった責任を抱えたくないが故のファブレスという経営的選択でもあるわけで。

しかしアップルしかり、ユニクロしかり、企業の規模が大きくなり、
巨額の利益を上げるようになると、その利益が搾取によって生まれているのではないか、という目で見られるのは確か。
巨大企業としての社会的責任として批判に晒されてしまうと言うことなのだろう。

企業の社会的責任、CSR活動に関して

本書では柳井社長の発言として、CSRも企業にとってプラスになるCSR活動しかやらない、という趣旨の話を紹介している。
柳井社長自身を本質的な社会的責任を果たそうと言う気持ちのない人、吝嗇なイメージに誘導するような引用だと思ったが、
CSRに対して明確に言い切っている姿はむしろ好感が持てる。

企業のCSR活動はただの寄付行為、ボランティアとは異なる。
逆に企業にとってもメリットがあるのだ、と判断できる活動をしているのであれば
その取り組み自体もゴーイングコンサーンなものになる可能性も高まる。

企業もまた継続性がなければならず、ビジネスとしての判断が介入しない行為をCSRと喧伝しても、
逆に偽善的にうつるんだよな、というのが個人的な考え。

現場にとっての柳井社長

ユニクロという巨大な帝国のオーナー経営者とは現場にとってどんな存在なのかが非常に気になっていたのだが、
毎週の部長会議での柳井社長の発言が全店舗に張り出され、アルバイトも含め全員読める状況にあるらしい。
こういう、実際働いてみないとわからない話は面白い。

末端まで声を届けようとするその仕組みがあること自体はなるほどね、という感じだったが、
本書で紹介されている発言の内容に関しては、そこまで現場寄りのマイクロマネジメントではないな、という印象。
やはり大局的な話にはなるわな、という感じも非常に面白かった。

そして、この部長会議で直接声を届ける姿や、末端への浸透作、
絶対的な権力者であり、トップダウンの体質などは読んでいて
セブンイレブン鈴木敏文元社長を想起した。

digima.hatenablog.jp

digima.hatenablog.jp

なんか似てるなと思ったら本書でも同じことに触れている箇所があり、やはりという感じ。

ただ、鈴木敏文はもっと現場よりなこだわりを持ち続けていた印象がある。
お昼は毎食自社商品とか、新商品全部試食してるとか、
もっともっとマイクロマネジメントの印象。

まぁ、もしかしたら柳井社長もものすごくマイクロな部分があるのかもしれないが、
本書で取り上げられているようなチラシの内容などにダメを出す姿は、
そこまでマイクロマネジメントの独裁者という印象でもないかな、とも思う。
鈴木敏文の弁当エピソードのほうが強烈。

トップがどこまで把握できるのか問題

本書でも指摘しているが、柳井社長が問題をどこまで把握できているのか、なんだよね。
サービス残業の実態も、把握できているのかどうか。
どんなに制度上禁止しても、タイムカードの時間だけ見てたら実態は見えてこない。
柳井社長にはサービス残業は撲滅したように見えてしまっていないか、ということ。

・実態が残っていても、制度として禁止しているから知らない。(まぁあるんだろうけど、見てみぬふり)
・ちゃんと改善しろと指示したし、本当にサービス残業は撲滅できた
・まだまだ撲滅できていないから対応を急がねばならない

社長の認識はどれなんだろう?

どんな組織でも上に上がれば上がるほど、現場の実態は掴みにくくなる。
本人が望んでも、層の厚い中間管理職にとって不都合な真実が現場には山積みだったりするから。
正しい現状認識からしか正しい判断、正しい行動はうまれない。

現場に寄り添うことだけが正解だとも思わないのだけど、
一代で成功した(つまり現場のこともバリバリわかってた時代がある)企業のトップが
いま見ているのはどんな風景なんだろうな、と思いを馳せた。

ユニクロはすごい企業だと思うし、柳井社長は名経営者だとも思う。
でもたたけば埃も出てくるし、成功企業にも常に課題はあると言うことでもある。
名経営者の下に優秀な人材も揃っているはずなのに、それでもこういった実態を潰せないのである。


一年に及ぶ潜入記録はリアルな姿を切り取っており、実態をこうして読むことができたのは非常に有意義。
もしかしたらお怒りなのかもしれないけれど、柳井社長もフラットに読んでみたら、
得るものが大きいんじゃないかな。
自分だったらとりあえず怒ったふりするかもしれないけど、内心感謝するな。
そしてこういう耳の痛い、直視したくない現実をレポートしてくれる機能を
どうやって社内の中で仕組み化していくかをちゃんと考えたい。

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年

超絶優秀な人の持つ、圧倒的な努力と覚悟を垣間見ることができる名著。 前田祐二/人生の勝算

売れてるビジネス書。
NewsPicks Bookは瞬く間にビジネス書のブランドになってしまったね。

面白いしキャッチーなんだよなぁ。
レガシーな経営者本とは一線を画す、今っぽさとリアリティーがあるから。

レガシー経営者本って説法みたいになるからな。
抹香くさいっつーかさ。それはそれで学びもあるんだけど。

というわけで売れてる『人生の勝算』を読んでみました。

人生の勝算 (NewsPicks Book)

人生の勝算 (NewsPicks Book)

とはいえ、読んだ理由は売れているからというよりも、前田さんに興味があったから。

彼がDeNAに入社して、しばらくした頃、
DeNAの南場さんがずっと口説いてた人物として
紹介される記事を読んだのを覚えている。

careerhack.en-japan.com


優秀な経営者に求められ続ける人物ってどういう感じなんだろう?
苦労してるって書いてあるけど、どんな人なのかな。
外資系のスーパーエリート??

この記事を読んで、漠然とそんなことを思っていたけど、
頭の片隅にしまって終わっていた。

それが3年後、twitterでなんだか盛り上がっている新刊情報を見てみると、、、
あ、これあの人じゃん、と。この人の本を出そうと思った人は目の付け所がいいなぁ、と。

そんでもって、前田さんが書いてることは自分にとってもとてもリアルな話だった。


コミュニティ運営のコツ

「自分がいなくても、このアイドルやアーティストは成立してしまう」という感覚にオーディエンスがなってしまうと、熱を帯びたコミュニティは生まれにくいのです。いわば現代人の多くは「自分の物語」を消費していて、何か完璧な「他人の物語」を消費することには、飽き飽きしているのです。
P.47

要するに、何かしら欠落したところ=「余白」が強いコミュニティには重要ということ。
コミュニティによって成り立っているビジネスの典型として街のスナックを例に説明しているのだけど、
地元に根ざした強固なコミュニティによって成立する様を綺麗に分析している。

今のアイドルビジネスもコミュニティによって成立するもの。
いや、アイドルに限らず、どんなサービスも愛のあるコミュニティを作れるかが重要な時代になっている。

雑貨のECで著名な北欧暮らしの道具店も、ECというよりは、
価値観に共感してくれるコミュニティを形成してその結果物販も売れてるみたいな構図だものね。

現代のクオリティコンテンツとは、プロがお金をかけて練り上げた完成品ではなく、その先にあるファンとのインタラクションがきちんと綿密に設計・実行されたものである、という価値観を、SHOWROOMを通して再定義しています。
P.86

だからこそ、人が、個人が、注目され、価値を出しやすい時代なんだろうなぁ。


仕事はゲーム

仕事はゲームだと思って楽しんで働いているんだけど、プライドの話は身につまされる。。。
自分は営業なわけじゃないけど、バカを演じてはいないから。。。
そして確かにバカになることは可愛がられる重要なファクターであることはとてもよくわかる。

「前田よ、仕事を舐めるな。お前は株を勉強して、お客さんに投資判断のアドバイスをすることが仕事だと思っているだろ。まったく違う。仕事は、ゲームだ。ゲームで勝つにはルールがある。そのルールをお前は、ちゃんとわかってない。だから成果が出ないんだ」
(中略)
プライドの高い営業の電話を取りたいと思うか?と言われて、またグサっときました。藤井さんは「肉」とおでこに書かれた状態のふざけた顔で、続けます。
「プライドはコミュニケーションの邪魔になる。まず、お客さんとコミュニケーションの接点を増やせ。そうしないと、俺たちの仕事は始まらない。あいつバカだねと思ってくれたら、成功だ。バカを演じきった次の日に、お客さんに電話してみろ。俺の言っていることがわかるはずだ。」
P.113 - P.114

思いやりとは他者の目を持つこと

仕事の基本は思いやり、ってのもすごく共感する。
自分たちではなくサービスを利用する人のことを考える。
そこをとにかく考え続ける。

それを他者の目を持つこと、と前田さんは言っている。
自分の言い方だと、想像力を持つこと、になるな。
想像力が欠如した人間は思いやりがない。

その他、自分の価値観を確立させる話とか、
とにかく圧倒的に努力する姿勢とか、
あー、なんだかすごく良くわかるなぁ、と共感しっぱなし。

でも、これNewsPicksをありがたがるようないわゆる普通の人に
どれだけ伝わるんだろうか。。。

頭では理解したつもりになるかもしれないけど、行動に移せる人はどれくらいいるんだろう。
まぁ、でも世の中なんてそんなもんと言ってしまえばそんなもんだよね。

でももしかしたらこの1冊から衝撃を受け、生き方を変える人がいるかもしれない。
そう考えると、やっぱり出版ってすごいな、と思ったりもしたのでした。


人生の勝算 (NewsPicks Book)

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