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企業特殊的資本だけ伸ばしていると危険な気がしてきた! ポール・ミルグロム ジョン・ロバーツ/組織の経済学 第10章:雇用政策と人的資源のマネジメント

いよいよ本題の人的資源の話題に。

人的資源政策は経営者が直面する最も重要な課題。

その分析アプローチは今まで同様、合理的で利己的な判断を前提とし、
取引費用に着目する。
資産効果は存在せず、価値最大化原理を適用する。
それらの前提は、かなり不完全に見えるが、
問題を整理し、現象を理解するためには役に立つ。

組織の経済学

組織の経済学

賃金、雇用、および人的資本に関する古典派理論

古典派理論による説明では、人的資本もまた、需要と供給の結果で決まる。
需要と供給のバランスで賃金が決まり、このモデルに登場する労働力はきわめて移動性が高い。
より望ましい条件下でのみ、その雇用主の下に留まり、そうでなければ毎日でも移動する。

労働者の生産性は、人的資本の影響を受ける。
人的資本とはその人が持つ知識や習得した技能のことで、
企業特殊的人的資本と汎用的ないしは、非特殊的人的資本に区別して考える。
前者は特定の企業にとってのみ役立つ技能、後者はどこでも使える技能、ということ。

しかし実際は、このモデルで言うほど労働力の移動性は高くない。
賃金切り下げは滅多にないし、長年にわたって一カ所で働き続けることが多い。


労働契約と雇用関係

現実の労働市場と雇用政策の特徴を理解するために、
雇用主と従業員の関係の性格を検討する。


雇用契約

労働サービスの取引のほとんどは、期間を限定しない複雑な契約が介在する。
多くの場合きわめて曖昧で、不明確だ。
なぜ曖昧で不明瞭なのかというと、完備契約が不可能なことが原因。
完備契約を目指しても無駄なので、関係的契約として大まかな条件と目的を明記し、
不測の事態に対しては、なんらかの解決の仕組みを組み込むことで、相互関係を形成している。


雇用関係における権限

原則、上司は従業員に何でも命じることができる。
従業員の実質的な武器は辞表。
雇用関係はあくまでも「自由意志」に基づいている。

契約上の多くの細目は相互関係の総価値を高めようとしていると考えられる。

・決定権限を持っている方が効率的な場合が多い
・同一の主体が契約で予想されていなかった事態に対しての残余決定権を持つことが望ましい
・誰が残余決定権を持ち、誰が決定権保持者になるか。

 →これには2つの見解があり、企業とは何か、ということと関係している。

契約の束としての企業

企業を契約の束として捉えるなら、不測の事態が発生した時になすべきことを、
代表者に決定させた方が、コーディネーションについて有利と言える。
それでは誰がボスを任命するのか?
効率的な配分の考え方では、資本所有者が残余決定権を持つのが通説である。
だが資本とは人的資本か、物的資本か。
大抵の場合、リスクは物的資本の所有者によって負担されるので、
彼らに決定権を与えることが効率的となる。


評判の担い手としての企業

相手を公正に扱う潜在的な動機は、将来の取引を行いやすくする良い評判を築き、維持すること。
決定権を持つ主体も、評判を築き、維持する誘因を持つ。
このことはより長期の視野を持つ主体に残余決定権を与えるべきだということ。
そう考えると、多くの場合労働者よりも、その企業への投資家の方が妥当。


暗黙の契約

不完備な契約を補っているのが、文書化されていない暗黙の了解。
暗黙の契約条件が、賃金、職務配置、労使双方の義務といった
雇用関係の重要な要素を左右している。
それらは自己拘束的なもので、協定に違反することの結末を恐れるがために、
当事者たちがこの暗黙の条件を遵守するインセンティブを持つように仕組まれている。

そもそも協定が裁判所などの外部者により強制されるためには、
契約違反が生じたかどうかの判定ができるように、
協定を理解し、当事者の行動を立証できなければいけない。
一方自己拘束的にするには、関係する諸主体が果たすべきことを理解し、
互いの行動を監視し、各主体が契約から多くのレントを得ることだけが必要。
どちらが情報上の要件が少ないかと言えば、それは暗黙の契約の方が少ないので、
裁判所の執行に頼る明示的な契約よりも、暗黙の契約の適応範囲が拡大されることになる。

このような取り決めは、レントあるいは準レントの存在が必要。
企業特殊的技能を訓練して習得させれば、
その労働者たちはこの企業にとって新規に補充される労働者よりもずっと価値ある存在となる。
彼らの企業特殊的資本からの追加産出量の価値100%に相当する賃金を支払わない限り、
労働者の辞職を防ぐことができるほど十分な準レントを、雇用関係を継続させることで稼ぐ。


雇用関係におけるリスクの分担

労働市場における古典派モデルでは、労働者の所得は時の経過と共に、大きく変動する。
企業はこの変動リスクの一部を負担し、安定した所得を保障することで、
モラル・ハザードに対する防衛のための決定権を持つことができる。
企業をリスク中立的と見なすことができれば、
企業は労働者を所得リスクから完全に保護しようとするはず。
それが労働者の期待賃金水準を引き下げることにつながり、労使双方にメリットがある。


インセンティブの問題と部分的なリスク負担

現実では何らかのリスク負担はなされているが、ごく部分的だ。
個々の変動に対しては、ある従業員に生じた損失と
ほかの従業員の利益とをバランスさせることで、保険会社のように行動できる。
が、第7章で見たように、あらゆる種類のリスク負担がうまく機能するわけではない。
会社が十分な資金調達できないならば、企業全体の将来に影響するような事象から
労働者を守ることを高価なものにしてしまう。
したがって労働者はそうしたリスクをある程度まで負担しなくてはいけない。
だが、企業が財務状態について労働者や組合よりも十分な
情報を持っている場合には、1つの問題を生み出す。
賃金を引き下げるために財務状態が苦しいことを誇張するかもしれない。
それを防ぐためには、財務状態の苦しさを訴えることで、
企業がある種のコストを負担しなければならなくなるような契約なり交渉が必要。
労働組合が存在する場合には、ストライキを
切り抜けなければならないという考え方がその例の1つ。
いずれの場合も企業は労働者の所得と雇用の変動に対して部分的なリスク負担分しか提供しない。
リスク中立的な政府による失業保険は、企業と労働者が結託するモラル・ハザードを生む。
不完全なリスク負担のもう1つの発生源は、労働者にインセンティブを与えたいという願望。
労働者をリスクから完全に隔離しようとする試みに共通する最大の問題は、
労働者たちが機会主義的に行動するかもしれないこと。
サボっても賃金は下がらない、頑張っても上がらない。
後者の場合はより良い待遇を求めての転職リスクにつながる。


採用、引き止め、雇用関係の解消

組織の労働力を管理し、従業員たちとの関係の価値を維持していくことは、
人事部の者だけでなくすべての経営者にとっての重要なマネジメントの課題。
まず、新たな従業員の選抜と採用、彼らを雇用してからの引き止め、
そして雇用関係の解消といった問題を取り上げる。
中でも、労使関係において、利用可能となる情報にはどうしても
差が生じることから引き起こされる問題に焦点を合わせる。
この情報の非対称性は、採用の際に特に問題となる。


採用

組織は新人を補充する必要性を常に抱えている。
何人採用するかはその組織の戦略、テクノロジー、将来予測に依存している。
目先の業績の良しあしに左右される部分もあるし、
将来不足することを見越しての採用という動機もある。
また、従業員を解雇、レイオフしたりするコストは、
何人雇用するかを決定する際の重要な要因になる。
終身雇用制度をとっている企業では、一時的に補充が必要とみられる場合にも
新規採用には積極的でないだろう。
同時に、長期雇用の保障などは、リスク回避的な労働者には魅力的であり、
その企業に人々を引き付けるのに役立つ。

求職者を引き付けるための最初のステップは、
組織とそのニーズを潜在的な求職者たちに知らせること。
一方、志願者が多すぎるという問題が起きる可能性もあり、
求める素質を備えたものだけが応募してくるように、
応募者間で自己選択できるようにすることが有益となる。
自己選択は組織が提供することと期待することを関係集団に知らせるだけで、
潜在的応募者の間で誘発させることができる。
スクリーニングの基本的な考え方は、企業が望むような人々からの応募を促し、
望まないような人々には応募をやめさせる政策や仕組みを企業が設計する、ということ。
仕事上の業績と結びついた給料は、
自分が生産的だと知っている人にとっては大きな魅力になる。
逆に年功賃金を利用すれば、長期間勤める気がない人を排除することができる。


採用基準とシグナリング

候補者が決まった後はそこから選別が必要になる。
志望者は誰もが仕事に就きたいと思うが、
すべての志望者が同程度に望ましいとは限らない。
志願者たちが持つ情報をうまく引き出すテストと面接が必要になる。
また、志願者が自ら発するシグナルも役に立つだろう。
第5章でふれたように、学歴に関するシグナルの例が考えられる。


従業員の引き止め

明示的な訓練を通じて、あるいは企業にいることの副産物として、
経験を積んだ従業員は汎用的、そしてまた企業特殊的人的資本を体得する。
汎用的人的資本は彼らをより価値ある存在にするが、
同時に高価にもなるので、特にお買い得な労働力にはならない。
企業特殊的人的資本は、その企業内でのみ有効な資本であり、
他企業はそこにほとんど価値を持たない。
したがって十分な報酬を支払う必要はなく、
企業特殊的人的資本をより多く備えた労働者はお買い得な労働力になりがち。
彼らにやめられることは企業にとっての損失になる。
優秀な従業員の転職は、その企業の将来にわたっての
なんらかの悪い情報を察知したシグナルと受け取られるため、人材の採用や引き止めを困難にする。
対応策としては、企業特殊的資本の対価を部分的にでも支払うこと。
それが離職率を減らすだけでなく、人的資本に磨きをかけるインセンティブにもなる。


外部からのオファー

理論上は、オファーを受けた従業員が有能であれば対抗措置をとるし、
そうでなければ手放す、という判断になる。
従業員にとっては雇用主間での競り合いが価値最大化の解をもたらす。
が、どんな仕事でも非金銭的な利益と費用を伴うものであって、
その価値は当の従業員にしかわからない。
よってこれらの不確実性を考えると、外部からのオファーをどう考えるかは極めて難しい。

一方、企業が従業員の生産性を把握しており、
外部からのオファーについて全く情報を持っていない場合は、
最善の策は定められた賃金を支払うことのみで、対抗策を講じないこと。
定められた賃金は、外部からのオファーがない時よりも高く設定される。
これは保険的な意味合いを含んでおり、
その従業員が去ってしまうことによる損失が大きいほど、固定賃金は高くなる。

こうした政策にはコミットメントが必要。
有用な従業員が外部からのオファーを受けたとする。
従業員も積極的に転職を望んでいるわけではなく、多少給与を上げてくれれば留まるという場合、
企業はその申し出を断れない。なぜなら、企業側も従業員側も明らかに得をするから。
しかし、取引をしてしまうと対抗策を講じないという方策の信頼性が失われる。
こっそりと対抗策を行うことは有望かもしれないが、
それを実行するには対抗策を講じないという作戦がうまくいかなくなることのコストを理解させ、
その従業員が重要であるために手放せないことを告げ、
給与の引き上げを決して同僚に明かさないように頼むことになる。
だが、従業員たちに本当のことを告げず、互いに嘘をつきあうことを求めるのは危険な策。
この話と関連する戦略としては、金銭以外の報酬による対応がある。
権限やポストを用意するなど。

また、これと正反対の戦略は外部からのオファーの促進だ。
こうした組織は最低限の賃金および給与引き上げしか行わず、
大幅な給与引き上げの機会は外部からのオファーを持ち込むことである。
この問題の課題は、有能な人材に外部からのオファーを探す時間を費やさせることにある。
しかも実際にオファーを受けて去ってしまうリスクもある。

実際に仕事を変える人には、転職のコストが存在する。
プライベートに関わるものから、雇用主からの罰金などの金銭的なものまである。
ゴールデン・ハンドカフという多額の後払い報酬や未帰属年金が科されるかもしれない。
従業員を引き止めるための罰則という側面が確かにあるが、
コースの定理は異なる分析を示してくれる。
従業員は外部からのオファーに対し転職先でより高い価値を生み出さない限り、社会的に非効率だ。
そういった価値の低い転職を罰則によって食い止めるという視点があり得る。


雇用関係の解消

効率的な雇用関係の解消を実現する際の問題は、
解消を言い出す側が、その決定に関係するすべての費用・便益を
十分に考慮する適切なインセンティブを持っていないかもしれないこと。
要するに、従業員は自分の損得を、雇用主も自分の損得しか
考えていない可能性があるということ。
これは社会全体として効率的でない可能性がある。
退職金などの雇用関係の解消に関する保障制度が適切に設けられていれば、
こうした問題は解決されるはずで、相手側の余剰の消滅を
相殺する額を相手側に払わなければならない。
そうすることで、当人はすべての費用・便益をすべて内部化できる。

が、ここで問題なのはいくら払うのが適切なのかということ。
個人的な価値に基づいた交渉になってしまうので、
そういった価値判断に依存しない標準的な支払水準の設定が必要。
第2の問題は、その支払額が転職のためかレイオフのためかで異なるならば、
その区別はあいまいで意味のないものになってしまう。
企業は従業員をやめたいと言わせるような悪い環境に置くこともできるし、
従業員は企業にやめさせたいと思われるような悪い態度をとることもできるからだ。
そうなるとどちらに非があるのかもわからず、極めて問題含みとなってしまう。


先任権とレイオフ

多くの企業は後入れ先出し方針をとっている。
在職期間が長い人を残し、短い人を先に出すということ。
経験豊富な労働者のほうが、給料に比べてずっと生産的であるならば、
企業も喜んでそうするだろう。
しかし実際給与は、生産性に伴って上昇するよりも経験に伴って上昇するほうが早い。
そのため年功者の給与は生産性に対して割高で、
先にそちらをレイオフしたいインセンティブが企業側には生じる。
しかしそのインセンティブに従ってしまうと、年功に応じた賃金という方針そのものを崩してしまう。
年功システムは努力していればいつかは高い待遇にたどり着くという、
努力インセンティブの源泉にもなっている。
若い人と比べて年長者が過大な賃金を貰っているように見えても、
あえて雇用を続けることには企業側にとってもシステムの維持を保証してくれているように
思わせる価値がある。


雇用関係の解消と人的資本投資

汎用的人的資本の投資機会があっても、
この訓練コストを従業員自ら負担することができないとする。
自明な解決策は、雇用主がその訓練投資を調達し、
しばらくの間は従業員の限界生産物以下の賃金を
払うことによって費用を回収することだ。
問題は別の企業がこの取り決めを崩すような魅力的な仕事を
進んで提供できるかもしれないことだ。
そのような理由で、従業員が大学院で学位取得のために勉強するのを
認めている企業の中には、授業料を貸し付けている企業もある。
学位取得後一定期間企業にとどまるならば、
貸した授業料は返済しなくてよいとしている。

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