学びや思いつきを記録する、超要約ノート

国内MBA2013年入学、2015年無事卒業!読んだ本、記事、などの読書ノート。 忘れないために超要約整理。そんな記録。

テーマも面白いし、論文の構成を学ぶ上でも参考になる。 川上智子/顧客志向の新製品開発

顧客志向という言葉は、今や絶対的に重要な要素として
認識されている感があるけれど、実際の新製品開発において
顧客志向を実践する際には様々な困難が伴う。

本書は成功事例、失敗事例ともに研究し、
実践の際の難しさや、成功のポイントを浮き彫りにする。
テーマ自体、非常に面白いだけでなく、
論文の構成の仕方としても大変参考になる。


顧客志向実現の難しさ

企業の中で顧客志向を実現するのが難しいのは,顧客情報の収集にコストがかかるだけでなく,それを組織の中で共有し,最終的に利用していく過程で,組織内でさまざまなマネジメント・コストが発生するためである。情報粘着性の理論に基づけば,これは情報の受け手と送り手の性質に関わる問題といえる。
P.5

そこに有用な情報があったとしても、組織全体でそれを活用しようとしなければ意味が無い。
とりあえず情報を収集したとしても、他の部署やチームが
「まぁ、参考程度に見ておきますよ」という態度では真に有効な活用は難しいだろう。
そうならないようにマネジメントすることの難しさはよくわかる。

さらに、顧客からの情報は万能ではないことも知られている。

本書で実施したインタビュー調査において,技術者達が口にしたのは,「顧客が提案することは,たいてい自分が既に知っていることばかりだ。自分は毎日100 %この問題だけを考えているのだから」という言葉であった。顧客は,企業の技術者のように専門分野で経験を積んだ問題解決のエキスパートではない。さらに顧客は,将来の未完成なものに対して想像力を働かせるのは苦手で,既に慣れ親しんでいるものを高く評価する傾向がある(Day 1999) 。
P.7

顧客は自分が欲しいものをわかっているとは限らない。
今無い商品やサービスに関して知ろうとしてもなかなかそういった情報を集めるのは難しい。
大切なのは万能ではないという弱点を知った上で、真摯に向かい合うこと。
だから駄目、重視しなくてよい、とばっさり切り捨ててしまったり、
まったく重要視しないというのは違う。
でもこの感覚を技術の人も含め、全員で共有することは大変難しい。


失敗からの再チャレンジ

過去に失敗したテーマやコンセプトを再び採用することほど難しいものは無い。
合理的に考えれば、まったく同じ商品だったとしても外部環境や
顧客のニーズの変化によってヒットにつながる可能性はある。
タイミングの問題は常に存在するはずだ。
で、あるならば、一度失敗した商品だったとしても、
再び挑戦してみる価値が出てくるタイミングというものは存在する。
だけど、実際にその失敗体験のある企画を社内で再び通すことはきっとかなり難しい。
そこで、使えそうなのが顧客情報。

市場における負の先行経験は,同じく市場から得た顧客情報をうまく活用することによって克服するのが最も効果的なのかもしれない。
P.127

この指摘はなるほどな、と思った。


耐久消費財における困難さ

耐久消費財の場合,大規模サンプルのプロトタイプ・テストを実施することは,次のような理由から困難であると考えられる。まず第一に,試作品が比較的容易に作られる非耐久消費財と比べ,耐久消費財で消費者テストに必要なプロトタイプを量産前に準備することは,非常にコストがかかる。量産前の試作品は一つひとつ手作りであるため,冷蔵庫の場合,1台数百万円かかることもある。第二に,耐久消費財は技術開発に時間がかかることから,プロトタイプが完成した段階で消費者テストを実施しても,その結果に基づいて製品をタイムリーに改良することが難しい。第三に,消費者テストによって,社外に開発中の製品に関する秘密事項が漏洩するリスクも問題となる。開発期間も製品寿命も長い耐久消費財では,競合他社の追随や模倣を少しでも遅らせるために,開発製品に関する情報を外部に漏らさないことが重要である。
P.132

プロトタイプ・テストの困難さはまったくもって仰るとおり。
さらに、製品開発上のジレンマも存在する。

製品の仕様は,それぞれがトレードオフ関係にあることが多いため,顧客の要望に沿ってすべての仕様を顧客が満足する水準で収めようとすると,際立った特徴のない製品になってしまうのである。ところが実は,小売店の店頭では,セールス・トークとして顧客を引きつけやすい目立った特徴のある製品の方が売りやすい。いわば顧客の声を聞けば聞くほど売りにくい商品になっていくというジレンマである。
P.138

要望のすべてを取り入れようとすると結局魅力が無い
平均的な商品になってしまうというのは開発者を悩ますジレンマ。
一体どうすりゃいいんだ、という気持ちになるだろうな。


確信製品と改善製品

既に述べたように,顧客情報を利用し,顧客の顕在ニーズや潜在ニーズに合致した製品を開発すれば,新製品の成功確率が上がり,失敗のリスクを回避できる可能性が高いといわれている( Li and Calantone 1998) 。
したがって基本的には,顧客情報を利用した方が利用しない場合よりも新製品の財務的成果は高まると考えられる。
問題は,革新製品と改善製品とでは,どちらがその程度が大きいかである。この問いに関して,先行研究では,2つの対立する見方が存在している。
まず,革新製品の開発に顧客情報を利用すると高成果につながらないと論じる研究がある。既出のChristensen (1997) のみならず, Leonard-Barton (1995) もまた,既に知っていることしか想像できない顧客の知識は限られた価値しか持たないと述べている。 O'Connor (1998) も同様に,革新性の低い製品では,市場情報は開発メンバーを顧客の欲求やニーズに集中させる効果を持つが,革新性の高い製品では,顧客は製品への欲求を表現できないだけでなく,時には企業を誤った方向に導く可能性もあると論じている。
しかし一方で,情報処理パラダイムの理論に基づけば,先行経験の少ない革新製品を開発する場合の方が不確実性が高いため,組織の学習と変化のためにより多くの情報が必要となるはずである。すなわち革新的な製品を開発する場合ほど,より多くの顧客情報を利用し,顧客に関する不確実性を削減した方が,新製品開発の成果が向上するという仮説が導かれる(Atuahene-Gima 1995) 。
ところがこの仮説は,こうした情報処理パラダイムに基づく議論を展開したAtuahene-Gima (1995) の実証研究では棄却されている。その理由をAtuahene- Gima (1995) では,革新製品は技術的な要素のみで売れる可能性が高く,顧客情報の影響が少ないためであろうと説明している。
P.222-P.223

このくだりは非常に興味深かった。
そしてたったこれだけの文章だけど、この整理には結構な時間がかかるよな、とも思う。
先行する論文を丹念に探し、読み込みながらしっかりと組み立てていくってこういうことか、と。


合意形成としての顧客情報

新製品開発プロセスにおいて収集された顧客情報は,製品コンセプトや製品仕様の決定といった直接的な目的だけでなく,組織の中で開発メンバー間の合意を形成したり,メンバーを動機づけたりするといったマネジメント上の目的でも利用されている。
P.230

メンバーの目線を合わせる、目指すものを明確化する、
あるいは、解決したい課題として明示するといった活用の仕方。

学びの多い本だった。しばらく寝かせて読み返したい一冊。