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取次会社の倒産の裏側を語る、貴重なドキュメント 小泉孝一/鈴木書店の成長と衰退

人文書の取次、鈴木書店の倒産の裏側を当時の取締役仕入部長が語る。
インタビュアーは小田光雄

こういった記録が残されることはとても貴重。

鈴木書店の成長と衰退 (出版人に聞く)

鈴木書店の成長と衰退 (出版人に聞く)


なぜ出版社は不動産をたくさん持っているのか

大手の出版社はかなり不動産を持っている。
そこからの安定した収入が、出版と言う何が売れるかわからない博打の世界で、
勝負をかける元手になっている。
そもそも安定収入が必要だから不動産投資をしていたのかな、
程度にしか思っていなかったが、当初は必要に迫られていた模様。

戦後は出せば何でも売れたから、出版社が雨後の筍のようにできて、三五〇〇社近くに及んだのが、数年のうちに一五〇〇社ぐらいがつぶれてしまった。
だから当時の出版社は水商売以下だと見なされ、銀行も金を貸してくれなかった。当たるか当たらないか、これほどわからない商売はないというわけで。そのために出版社は儲かったら不動産を買えということで、土地を買い、それを担保にして金を借りるしかなかった。
P.20

昔は水商売以下の怪しい企業扱いだったというのは聞いたことあったけど、
土地を担保にするしか銀行と付き合うすべがなかったのだな。
納得。


統一正味

- その丸善の統一正味が最初だったんですね。
小泉 当時は丸善も売上がすごく伸び、効率化もめざしていたので導入されたという経緯がある。
経理における計算に関してはこれはどの省力化はないわけで、丸善はそれをすぐに他の神田村の取次や日販にまで実施するようになった。この丸善の動きがきっかけになって、統一正味というのが拡がっていったことになる。
なるほど。鈴木書店丸善の取引が統一正味の走りなんだ。
P.106

取次会社は出版社と様々な条件で契約している。
仕入の掛け率は出版社ごとに違う。支払いサイトも違う。
同じ売価の本だったとしても出版社によって取次の取り分は異なるわけだ。
昔はこれを書店との間でも商品ごとの条件の違いを反映した取引をしていた。
出版社によって書店の取り分も違ったということ。
ただ、これはものすごく煩雑。
で、丸善がやったのが統一正味。取次と書店の間の条件を一本化したということ。
色々細かい条件の違いはあるけど全部ひっくるめてこれでやりましょうやって言う話。

今ではこれが当たり前になっているけれど、これが取次を苦しめている側面もある。
例えば医学などの学術書、専門書の出版社の掛け率は非常に高い。
ゆえに、出版社からの仕入れ価格が書店への卸価格を上回ってしまうことが発生している。
いわゆる逆ザヤ。
でも取次はその書店の帳合を失いたくないので一部の逆ザヤ取引に耐えながらやっている。
今の出版業界は出版社も、取次も、書店も、みんな儲からなくなってきてる。
市場はシュリンクするばかり。まぁ、ちょっと歪んでるよね。


結局決断できないことが死を招く

正味切り下げ問題に関する全社的な取り組み、大学生協との取引の経営的判断に対して、厳しい姿勢をとれなかったことも後悔として残っている。
例えば高正味の有斐閣に対して、正味を切り下げてくれなければ、取引を止めると交渉すればよかったのに、そこまでできなかった。
生協のことも首都圏と大都市圏の生協はそれなりの売上があり、利益が出ていた。
ところが地方の小さい生協は運賃や人件費を考えたら、とても採算が合わない。
それらは他のところにまかせるべきだということで、大学生協に交渉にいったら、全部鈴木書店にやってもらわなければ困るといわれ、断わることができなかった。
経営の立場として、有斐閣がなくなったら、生協がなくなったら困ってしまうのではないかとの判断で、結局そのままになってしまった。
そこら辺の判断の弱さというものも反省しなければならないところだ。
今さらいってもどうにもならないことだとしてもね。
P.154

これは経営のミスだとしか言いようが無い。
もちろん長年の付き合いや慣習慣例で成り立っている業界なので、
難しい問題なのはわかるのだが、最後の最後はビジネスであることを忘れてはいけない。
倒産するとなった時に生協も、有斐閣も助けてくれるわけではないのだから。

鈴木書店の成長と衰退 (出版人に聞く)

鈴木書店の成長と衰退 (出版人に聞く)