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コンテンツビジネス関係者は必読! アニータ・エルバース/ブロックバスター戦略

ブロックバスターというのはコンテンツビジネスにおける途方もない大ヒット作のこと。
ハリウッドの超大作が世界中でメガヒット、みたいなやつ。

で、映画やテレビ業界における近年の戦略として、
製作とプロモーションに途方もない金をかけて、
意図的にそれらの大ヒットを生み出しているって話。
しかもそれがどうやら有効っぽいぞ、と。

コンテンツビジネスは当たるも八卦、当たらぬも八卦の博打っぽいところが
あるビジネスなのだけど、ヒットをコントロールするドライバーとして
桁外れの金をつぎ込むことが理に適っているという話はとても面白い。

ブロックバスター戦略―ハーバードで教えているメガヒットの法則

ブロックバスター戦略―ハーバードで教えているメガヒットの法則


流通コントロールの側面としてのブロックバスター

製作費にいくら突っ込んだか、どんなスターが登場するか、
プロモーションを超大規模に打つこと、
製作側がそこに勝負をかけていることの1つの証明が、
いくら突っ込んでいるか、ってことになる。

作品が面白いか、面白くないか、そんなことよりも
わかりやすい指標なわけだ。

エンターテインメント企業がブロックバスターに大きく賭けることをやめると、チャネルに対して企業が行使していた力が次第に衰えることがわかる。
ほとんどのメディア市場では、小売店からの支持が販売の決め手となる。
映画業界では、公開後の数週間に映画館経営者からあてがわれるスクリーンの数が、映画のそれ以降の収益を予測する最大の手がかりとなる。
映画館経営者は、自館の限りあるリソースに値する作品だという確証が欲しい。
スタジオが並々ならぬ熱意でその映画を後押ししており、大がかりな販売キャンペーンを企画しているという事実が、彼らにとってその何よりの裏づけになる。
P.54 - P.55

それは小売がどの作品を扱うか、という選択において有効であるだけではなく、
消費者の選択も同じ様な心理が働いている。

今や多くのエンターテインメント企業に採用されているブロックバスター重視のマーケティングは、何もないところから生じたわけではなかった。
実は、豊富なエンターテインメント作品の中から、消費者が作品を選択する方法を反映しているのだ。
生来人間は社会的生物なので、一般的にいって、ほかの人だちと同じ本を読んだり、同じテレビ番組を見たり、同じ映画を観たりすることに価値を見出す。
人間は勝者を好むものだ。
P.57

だから、ヒットがヒットを呼ぶ、売れるものがより売れるといった、
一部のヒット作への上位集中が進むんだな。


ブロックバスターだけを作ってるわけじゃない

じゃあ、みんな毎年2、3本に絞って金かけまくってやればいいじゃん、となるのだけど、
そうはなっていない。なぜか?

ここで重要なのは、エンターテインメント企業の幹部がなぜブロックバスターに勝負を賭けるのか、ということではない。
真に問題となるのは、彼らがなぜ低予算の作品を依然としてつくるのか、ということだろう。
P.62

こういう問いの立て方は面白い。

第一に、低予算の投資はテストケースの役割を果たせるからだ。
小さな賭けを妥当な数だけ行えば、メディア制作者が次の大ヒットシリーズを見出す手がかりとなる。
映画業界では、続編がブロックバスターを狙ううえで最も安全な一手とみなされており、低予算の投資は続編を生み出せる映画を発掘するのに役立つのだ。
(中略)
低予算投資のもうひとつの利点は、バンパイア映画からオーディション番組まで、商品の新たな形式を試せる点だ。
範囲を狭めて投資することにより、あるタイプやジャンルが利益をあげることが、自ずと明らかになる場合もある。
たとえば、超低予算のホラー映画などがこれに当てはまるようだ。
また、低予算の賭けは、メディア制作者が″輸送経路を満たす″ためにも役立つ。
結果として作品を販売する企業に、常に満足感を与えられる。
たとえば、新作を市場に絶え間なく送り出す出版社は、書店との関係を維持・構築しやすくなる。
すると、その出版社は書店に対して、大幅な値引きや店舗内の設置場所、その他マーケティング活動でも有利に交渉を進める立場を得られる。
P.62 - P.63

細かなテストマーケティングとしての作品製作、
ヒットの端緒を掴んだらためらうことなく金をつぎ込み、
ブロックバスターを育て上げる。
テストと育成の仕組みがある程度出来上がりつつあるということ。


マーベルのやり方には日本の出版も見習うべきところが多数

プロモーションはスタジオ側にやらせる。
で、コミックスやグッズの売り上げでしっかり稼ぐ。
研究開発に専念している感じ。

日本の出版社も似た様なモデルではあるのだけど、
マーベルほど強い立ち位置で君臨出来ていない。

マーベルの経営幹部は、商品開発費と広告宣伝費を最小限に抑えるビジネスモデルを打ち立てた。
この2つの費用は、ブロックバスターを売り込むとき大きな財政負担となるからだ。
マーベルは自社の費用を最小限に抑えて、キャラクターのライセンス契約先のスタジオに費用を負担してもらうことにした。
その仕組みを紹介しよう。
マーベルは、コミックブック、おもちや、メディアーライセンシング、消費財ライセンシングを担当する各事業部をもつことで、小さなコングロマリットのように機能していた。
キャラクターやストーリーはコミックブック事業部で開発される。
事業部は実質的に、研究開発センター、またはアイデア養成所のような役割を果たしていた。
しかも、きわめて効率の良い養成所だ。
コミック出版は比較的費用がかからず融通が利くので、通常の印刷部数なら、わずか1万ドルから2万ドルしかかからない。
マーベルはパートナー契約を結んでいる映画スタジオに、自社ブランドの広告宣伝を任せていた。
映画スタジオとのライセンス供与契約に、マーベルは映画製作費用およびマーケティング費用は負担しないと明記されていた。
「通常、わが社は3000万ドルから8000万ドルほどを、映画の広告宣伝に費やしてもらった」。
アラッドは2004年、インタビューでそう語った。
「おかげで、評判は野に放った火のようにすごい勢いで広まった。
世界中でマーベルというブランドと個々のキャラクターが取り上げられるようになった」。
その結果としてブランドにもたらされたプラスの影響について、クネオはこう説明した。
「わが社の映画を観た人は、わが社のコミックブックやビデオゲームに興味をもつかもしれないし、マーベルのキャラクターが描かれたTシャツや、ほかの消費財を買うかもしれない」。
P.75

消費者とブロックバスター

社会的影響力は、大衆文化の市場において強い力をもつ。
わたしたちは社会的存在なので、ほかの人が聴く音楽と同じ音楽を聴きたがり、同じ本を読みたがり、同じ映画を観たがるものだ。
端的にいえば、わたしたちは繰り返し人気商品を選んでいるものなのだ。
たとえトップと次席の差がほんのわずかであっても、経済学者が示すように、この傾向は出だし好調な商品に有利に働くことがある。
ある商品が発売最初の週に競合商品を押しのけてトップの座に就けば、職場のおしゃべりでも取り上げられるかもしれず、最終的に商品の売れ行き全体に大きな違いをもたらすかもしれないのだ。
P.98

「わたしたちは社会的存在」ってのはすごく本質をついてる。
それぞれクラスタは違うんだけど、結局仲間内で共有できる何か、を求めてるんだよね。
それが『ハリーポッター』の場合もあれば、『MAD MAX』の人たちもいたりする。

ここで書いてある通り、出だし好調な商品にかなり有利に働く様になってる気がする。
Winner Takes Allはコンテンツ産業でも確実に進行してる。

エンターテンイメント商品は、体験型の商品なのだ。
消費する前に商品の質を確実に評価できないから、消費者がろくに考えもせず目の前に置かれたものを選ぶといっているわけではない。
広く流通させてマーケティングすることが、違いを生み出すといっているのだ。
P.100

そしてこういう商品特性だからこそ、口コミとかが効くわけだよね。
みんなハズしたくない。


スーパースターの呪い

スターが出演することは、それだけで話題性をもたらすのだけど、
スターのギャラの高騰によって採算はあまりよくないって話。
結局スター自らが積み増した利益分を、スター自身が自分のギャラとして取っ払っていく。

2000年代半ば頃、スターとスタジオの主導権争いは映画スタジオの採算性に貢献しないことが、一層はっきりしてきた。2001年から2005年までの配役決定について1200 件以上を調べた著者のリサーチから、一流俳優の主演映画は確かに大きな興行収入をもたらすが、出演料の高騰のせいで、スターがもたらした利益も一掃されるとわかった。
結局スタジオには、それほど有名でない俳優を起用した場合の利益と同じほどしか残らない。
言い換えれば、当のスターたちが、自分がもたらした余剰分から一番多くを得たということだ。
仮にスタジオがジョニー・デップを主演に据えたおかげて2000万ドルの増益となったとしても、デップが同額の報酬を要求したら、スタジオの損益にはまったく貢献しない。
これは数多いリサーチのI件にすぎないが、映画業界に関するほかの学術的調査も、「スーパースターの呪い」ともいうべきこの現象を裏づけている。
P.177

スターが、それだけのギャラを取れるようにまでなったこと自体も面白い。
でもあくまでも採算が合わない水準は長続きしないだろうなぁ。


大して好きじゃない人たちを動かす

要するに、映画好きとか言ってるけど、
大して見てないしっていうぬるーい人たちが人気商品の支持者層。
無名商品買うのはオタク。
まぁ、そういうもんだよね。

人気商品の支持者のうち極端なほど大多数の人たちが、どちらかというと淡泊な消費者(特定の種類の商品をそれほど頻繁に購入しない)で、無名商品の支持者のうちごくごく少数の人たちが、どちらかというと旺盛な消費者(その種の商品を頻繁に購入する)であることを発見した。
言い換えれば、無名の商品は、それに代わる多くの選択肢をよく知る人たちに選ばれ、人気商品は、他の選択肢をほとんど知らない人たちによって選ばれる。
P.226

で、そういうふわふわした、ぬるい大衆を動かせるとヒットするんだよなぁ。

で、ネットの普及とともにロングテールの可能性が喧伝されたけれど、
ビジネスで重要なのはやっぱりヘッドなんじゃない?って話も。

「テールは非常に興味深いが、現実として、収益の大部分は相変わらずヘッドにある。
これは企業が学ぶべき教訓である。
ロングテール戦略を擁する一方で、ヘッドももつほうが良い。
それは、ヘッドこそが収益を生み出す場所だからだ」。
シュミットはこれを「90対10のモデル」と称して、「われわれはロングテールを気に入っているが、わが社の収益のほとんどはヘッドからあがる」と述べた。
グーグルが実際に、収益の90パーセントを上位10パーセントの広告主からあげているとすれば、同社がビジネスを行っている大半の相手はおそらく、グーグルが検索連動型広告を開拓する以前の従来の市場で活躍し、従来のメディア広告で今なお最大のシェアを誇る大手広告主ということになる。
P.228

グーグルですら、収益のほとんどをヘッドから上げている。
テールの集積は確かに売上高としては相当量あるのだろうけど、
収益という観点からはロングテールは有効ではないのかも?


デジタルの進展とブロックバスター化の加速

電子書籍は安くて当たり前的な消費者の発想。
まぁ、気持ちはわかるけどね。
でももはやコンテンツは無料が当たり前みたいな感覚が
すごく強くなってるからな。

読み放題、見放題の普及で個別タイトルへ金を払う感覚ってどんどん希薄になってる気がする。
コンテンツホルダー側も、あんなサービスになんでコンテンツを提供するのか謎。
どうやったってマネタイズできないような過去のクソコンテンツだけあてがっとけば良いのに。
胴元の取り分が大きすぎるからあれに乗っかるのは本当にバカらしい。

消費者は普通、エンターテインメント商品の独特のコスト構造についてほとんど知らないので、どのくらいの代金が適正なのか、正しい認識をもちにくい。
著者の見るところ、世間一般の人々は、(ハードカバーの書籍やCD、DVDなど現物商品の製造や梱包、出荷にかかるコストを高く見積もる傾向がある。
そのせいで多くの人は、デジタル商品(コストの多くが削減される)について、メディア企業が実際に提供できる価格より、はるかに安い価格で購入できるはずだと思い込む。
P.240

で、ちょっと話は変わるけど、デジタル化の進展がブロックバスター化を助長するという話。

全般的に見て、デジタル技術の進歩は一見、″民主化を促す″影響力があるかに思えるが、現実には正反対の力をもつ傾向がある。
かえって、一極集中化とひとり勝ちの力学を助長するのだ。
メディアーコンテンツの再生産、流通、消費を容易に、かつ廉価にすることで、新技術は世界中の人々に、人気の高いテレビ番組や映画、書籍を入手する手段を次々と与えている。
このように急速に進展する市場において、ブロックバスターとスーパースター起用の妥当性は高まり、ブロックバスター戦略の有効性も強まっている。
P.246

個人的にはこの辺の話がすごく面白い。
趣味嗜好は多様化していくように思えるけど実はしていない。
消費者は自分で選んでいるように見えて、実は選ばされている。

コンテンツビジネスはまだまだおもろい!

ブロックバスター戦略―ハーバードで教えているメガヒットの法則

ブロックバスター戦略―ハーバードで教えているメガヒットの法則