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店舗もチャネルの1つでしかない、「個客」を中心にしたチャネル展開のデザインができるか否かが問われている。 奥谷孝司・岩井琢磨/世界最先端のマーケティング

奥谷さん、岩井さんの早稲田ビジネススクールコンビが出した著作。
タイトルと表紙がちょっと地味というか、キャッチーさに欠ける部分があるものの、
内容は、実に堅実な分析。

奥谷さんを見ていると、実務家として最前線で戦いながら、
嗜好としてはアカデミアンな側面をお持ちな印象で、本書にもその感じが出ている。
(もちろんいい意味で)


世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

オンライン企業のオフライン進出

本書で一貫しているのは、オンライン企業のオフライン進出を、
単なる実店舗運営とは異なる視点での展開と分析しているところ。
それは単なるマルチチャネル展開ではなくて、チャネルシフト戦略なのだ、と。

「チャネルシフト戦略」とは、
1.オンラインを起点としてオフラインに進出し、
2.顧客とのつながりを創り出すことによって、
3.マーケティング要素自体を変革しようとする
戦い方である。
P.2

アパレル業界で例に出ていたBONOBOSは、
顧客が事前にオンラインで商品をセレクトし、そのフィッティングと購入に店舗に訪れるというもの。
従来のショールミングとも異なるオフライン店舗の活用方法。

また、「店舗スペースの効率化」も実現している。従来のアパレル店舗では、ある程度の余剰を見込み、店舗には相当量の在庫を持っている。しかし、ボノボスは店頭在庫が少なくて済むため、店舗のすべてのスペースを、顧客の体験のための空間として使い切ることができる。結果的に好立地の店舗でも、在庫のための保管スペースにかかるコストを抑えることができる。
P.49

実際自分も、最近オンラインECサイトの実店舗をオフライン展開するプロジェクトに関わっているのだが、
店頭ストックのスペース確保と在庫管理は適正とは程遠いレベルで非効率。
全く異なった発想でオフライン店舗のあり方を考えた方が面白いことができそうだ。

実際、EC側でほしい商品を指定してもらい、店舗でリアルに試着体験みたいなオペレーションを
どう実現するかを考えた方がやる意味ありそう。

スーパー、生鮮食品の小売業態の変化

AmazonGoのような無人店舗の話題が盛り上がっているが、
店頭で実際に商品を見ながら、アプリでコードをスキャンすると、決済および、自宅に配送してくれるという
なんとも近未来なスーパーがすでに中国には実在する。

アリババ(阿里巴巴)が出資する中国の食品スーパー、ヘマーセンシェン(食馬鮮生)だ。ヘマーセンシェンのオフライン店舗を訪れた顧客は、スマートフォン向けに提供されているアプリを立ち上げ、店頭で商品の値札をスキャンしていく。スマートフォンGPS(全地球測位システム)を活用し、顧客がいる店舗を特定して、その在庫が表示されるようになっている。支払いは、アリババが提供する電子マネーのアリペイで完了する。これによってヘマーセンシェンは、顧客と購入データを紐付けて把握できる。購入した商品は、そのまま店舗で受け取ることもできるが、宅配も選択可能だ。しかも店舗から5キロメートルまでなら30分以内に届ける、というサービスを展開してる。

小売の、特にオフライン店舗の役割が劇的に変化してきていること、
そして日本は結構遅れ気味だということがこれを見るとよくわかる。

いわゆるファッションビルとか百貨店に関していうと、テナントがオンラインへ誘導することを禁じる傾向が強い。
オンライン、オフラインのシームレスな連携をテナントに禁じるというレガシーな流通が変化の足を引っ張っている。
紙の本と電子書籍の関係もまた、旧態依然としたレガシーな流通(とその流通への配慮、無駄な忖度)が足を引っ張っている好例。

変化したのは店舗ではなく、顧客管理

クロスチャネルとオムニチャネルでは、顧客接点である店舗は何も変化していないということである。変化したのは店舗ではなく、顧客管理である。つまりシングルチャネルからクロスチャネルまでは「店舗を軸に顧客の管理を行っている」のに対して、オムニチャネルからは「顧客を軸にチャネルの管理を行う」ことになる。これは、大きなパラダイム・シフトである。
P.102

オムニチャネルは、つまるところ顧客管理なのよね。顧客を中心にタッチポイントを全て把握し、活用しようという試み。

したがって、顧客を軸にチャネルを統制するのであれば、来店前の情報チャネルや、購入した後の接点も含めて考える必要がある。店舗はもはや、顧客の買い物行動における、1つの通過点に過ぎない。顧客の選択に影響を与える、店舗・アプリ・商品・メディア・SNS、その全てが情報であり、チャネルであると考えねばならない。顧客の買い物行動を軸として、これらのチャネルを配置、連動させるという視点が必要になる。
P.105

この顧客管理を中心に考える考え方って、通販業界では当たり前のものだし、何十年も前からやってきた知見が詰まってる。
普通の企業が顧客データが集まるようになったもんだから、カタログ通販会社がやってきたようなことが
より大きなスケールで話題になっているという印象。

だから、今は何かと厳しいカタログ通販の会社の人とか、転職する好機だと思うよ。
今まで顧客情報を直接管理できなかった人たちが、CRMぽいことをやりたがってる時代なんだから。

顧客管理におけるアプリとID-POSの違い

購買情報を取得するだけであれば、ポイントカードを軸にしたID-POSで事足りる。
ただ、それだと片手落ちなのよね。
入手したデータをもとにこちらからアプローチできる双方向性こそが重要なポイント。
直接顧客にアプローチしづらいID-POSではダメなのよ。

アプリの大きなメリットとして「コミュニケーションの容易性」がある。ID-POSでも、顧客が何を買ったのか、どんな商品が好みかは確かにわかる。しかしそこで獲得できるのは、いわば「購入データ」という「点」に過ぎない。カードホルダーの顧客へのコミュニケーションはダイレクトメールや、せいぜいeメールだ。つまり購入データだけを取っても、顧客との対話が生まれないのだ。対話が生まれなければ、顧客とのエンゲージメントは深まらない。
P.167

そして、社内に散らばっているユーザーのID(ミニCRM)の統合をという話になるんだけど、
これが最もハードル高い領域。
部署によって、てんでバラバラに顧客情報を持ってたりするんだよね。
それらを会社として1つに統合する意義はとても大きいんだけど、よほどのトップダウンがない限り動かない。
でも、やるとなったら、統合させるメリット、インsんセンティ部をしっかりユーザーに用意してあげることが大切。

もちろん、MUJI Passportのユーザーが全員IDの紐付けをしてくれるわけではない。実際の結果は、各IDごとにせいぜい20〜30%程度の統合率だった。それでもマーケティング上は大きな意味がある。ある程度の母集団が出来上がるので、統計的な分析に値するデータとなるのだ。
P.173

ちなみんこのMUJI Passportで20〜30%というさらっと書かれている数字こそ実務家は痺れる数字なんじゃないだろうか。
こういう具体的な数字ってなかなか表に出てこないんだよね。
ID統合しましょうって時に、どこらへんが落とし所なのかも想像つかないわけよ。
そこにMUJI Passportで20〜30%というファクトがあると、1つの指針になるわけ。
こういう数字こそ、実務薄める上では一番役に立つ。

配送サービスレベル

日本通信販売協会JADMA)が、2013年に会員社12社の顧客を対象に実施した「配送満足度調査」のデータは、顧客の「本音」が見えていて興味深い。そこで顧客が求めている配送サービスへの希望を見ると、「配達時間の指定」が68%、「配達日指定」が62%と、配達日時間指定に関する要望が高い。その一方で、「当日配送」は4%、「翌日配送」は9%と予想外に低いのだ。
P.214

これ、とても大事なところ。
Amazonの影響もあってだけど、早く届くことに注力しすぎになってしまったと思う。
結果的に物流会社の現場を疲弊させ、値上げへ。
回り回って自分たちの首を絞める展開になってしまっているが、
顧客はそこまですぐ届くことを重視しているわけではないのだ。

まだまだ宅配ボックスの普及も進んでおらず、大多数の人にとって、荷物を受け取ること自体が面倒であって、
時間や日付を決めてきてくれる方がよっぽど楽なんだろうぁ。

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略

世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略