来るべき動画の世界の最前線を走っている明石ガクトの著作。
もともとadtech九州でお話聞いて面白いなーと思ってたところで著作が出たので迷わず購入。
そもそも映像と動画は違うっていう話が素晴らしかった。
それは情報の密度が違うということ。
彼はこの本ではそれをIPT(Information per time)と表現している。
時間あたりの情報の密度、だ。
動画はその密度が圧倒的に濃い。
動画になれた子供たちがテレビを退屈に感じるというのも
すべてIPTの問題。
IPTが薄いコンテンツを、若年層は忌避する。この流れは、何も映像に限った話ではなくて音楽や雑誌、漫画、あらゆるところで発生している現象だ。
P.73
ここまで明確に定義してくれるととてもわかりやすい。
そして明石さん自身がクリエイターであるからなのか、
とにかく語りがうまい。
彼自身がストーリーテラーなのだ。
動画2.0 VISUAL STORYTELLING (NewsPicks Book)
- 作者: 明石ガクト
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2018/11/05
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
アフォーダンス理論
「ガラスが割られるのは、そもそもガラスが割られたがっているように見えるからだ」という内容で、目に見えるものは何らかの行動を喚起させるシグナルを送っている、という理論。
P.8
良いデザインはこれと矛盾しないようにできているわけ。
むしろよりわかりやすくシグナルを増強しているとも言える。
それがデザイン。
その辺に関しては、『誰のためのデザイン?』が超良書。
デザインする人で読んでない人は信用ならんくらい古典的名著。
目に見えるものがすべからくシグナルを発しているのだとすれば、
人もまた同じであろう。
人のシグナルを読み解くことは物事を円滑に進める助けになるだろうし、
自らがどのようなシグナルを発しているように見えるのかを自覚することは有意義。
この場合、自分がどのように見えるのかが重要。
自分がどうしたいか、どのように見られたいか、何を発しているつもりか、ではなく、
意志と見え方のギャップに自覚的であれと思う。
マーケティング的にはパーセプションが全てだから。
どのように受け取られるか、それがすべて。
大勢で観る?一人で観る?
シネマトグラフとキネトスコープ、デバイスの特性がこれからのコンテンツにどんな影響を生むのか考えてみよう。
シネマトグラフ方式の「大勢で観る」という指向性と、キネトスコープ方式の「一人で観る」という指向性の違いが最も重要なポイントになってくる。
「大勢で観る」ことはつまり、皆で同じものを見て盛り上がれるようなコンテンツと相性がいい。(中略)
一人で楽しむメディアとして、忘れてはならないのがラジオの存在だ。「テレビの前のみなさん」とアナウンサーが表現する一方で、ラジオのパーソナリティは「ラジオの前のあなた」と表現する。
エジソン的回帰時代のコンテンツは「あなた」のためであって「みなさん」のためではない。
P.95
スマートフォンという画面で楽しむコンテンツは一人で観るもの。だからコミュニケーションの質がラジオ的なものが良いというお話。
これは真理だと思うし、こんな素晴らしいことをしれっと教えてくれるなんてとても素晴らしいことだ。
本質的にパーソナルなコミュニケーションなんだね。
Instagramのフィルター
こういう雑学的な情報かつ複数の課題を解決するアイデア、大好物なんだよね。
Instagramで写真をUPする時にかけるフィルターは写真のデータを軽くするという目的がきっかけで考案されたアイデアだ。個性的なフィルターをかけることで、画質が多少落ちてもわからない状態になる。それにより、サーバにあげる写真のデータを圧縮することができた。
P.99
ユーザーが喜ぶサービス(自分が撮った写真の見栄えを良くしたい)でもあり、事業者側の課題の解決(最新のスマホの画像データがでかいから少しでも圧縮したい)にもなっている、こういうお互いの課題をいっぺんに解決してしまうのがアイデアの力だと思う。
強いアイデアは複数の課題を解決する。
昔、ある人が主人公とは何か?という話をしてくれたことがある。
A or Bを選ばなければいけない状況の中で、Cという選択肢を提示できるのが主人公。
これもアイデアの話に通じるものがあるんだよね。
コンテンツとメディア
コンテンツが積み上がって、日々コミュニケーションが生まれて、そうやって初めて視聴者や読者が付いてくる。メディアになりたかったけど、そのためにはコンテンツ量が大事だということに気づいた時には、会社のキャッシュがなくなりかけていた。僕らは食いつなぐために受託で動画制作の仕事をやることにした。
P.178
こんなに成功しているように見える人たちも、とんでもなく苦労して、努力している。
きっとこれからますます成功して行くんだろうけど、潰れかかってたなんて想像つかないんだろうな。
皆、見えないところでもがき、努力している。
さて、
コンテンツ制作とメディアになることは別物なんだよな、と常々思っている。
そしてコンテンツは作っただけでは流通しない。
YouTubeというプラットフォームは流通プラットフォームデアはあるが、
コンテンツは生まれた瞬間、無数のコンテンツに埋もれる。
砂漠の中の砂つぶの1つ。
メディアになるということはユーザーにコンテンツを流通させる力を持つこと。
両方できると最強だけど、クリエイターとしてコンテンツ制作とメディア運営はまた別物だから、
両立はとんでもなく難しいと思うのだけど、真のメディアとは制作能力とセットになっている。
NewsPicksもキュレーションだけではなく、オリジナルのコンテンツを急拡大させて初めて真のメディアになった気がする。
今や落ち目だけど、昔は雑誌もコンテンツとデリバリーの両方を兼ね備えていた。
今は出版流通という既存のデリバリー構造がぶっ壊れているイメージ。
いや、しかし本当に動画に関する考察やノウハウをここまで開示している本は無いと思う。
10年後、IPTという概念を明示した古典として語られる名著なんじゃないかな。
動画2.0 VISUAL STORYTELLING (NewsPicks Book)
- 作者: 明石ガクト
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2018/11/05
- メディア: 単行本
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