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レント分配にかかわる決定はただ1度に限って行われる。 ポール・ミルグロム ジョン・ロバーツ/組織の経済学 第8章:レントと効率性

第8章は、今までのインセンティブの考え方だけで無く、
効率性賃金の考え方や、信用のメカニズムについて学ぶ。

組織の経済学

組織の経済学

分配が効率性に影響を及ぼす場合

ここまでの議論は、ほぼ価値最大化原理に立脚していた。
この原理は資産効果の不存在を前提とした場合、
一定の取り決めが当事者にとって効率的になるのは、
資産価値が最大化されることと同値である、ということ。

では、資産効果の不存在が成立するための条件は何か?

・当事者のそれぞれが、受け取る便益と負担する費用ならびにリスクを
 何らかの金額に換算して評価できる。
・この評価額がそれぞれの保有する資産額に依存しない
・取引からの便益を分割するために必要などのような支払いも、
 取引のほかの側面にかかわる費用や実現可能性に影響を与えることなく、
 済ますことができる。

上記の3条件を満たすことが前提となる。

しかしながら、資産効果の重要性が極めて大きく、
分配と効率性の問題を分離して分析できない場合も多い。

例えば、発展途上国において、
高賃金を得る労働者は栄養価に富んだ食事ができ生産性も高い、という場合がありうる。
この場合、高賃金支払いが、生産性を高めると言う関係が成り立つ。

また、労働者の道具を誰が所有するべきかと言う問題もある。
長距離トラックの運転手は、運転ならびに、メンテナンスに配慮することで
トラックの価値に大きな影響を与えられる。
このとき、運転手にトラックを所有させることが最適解だとしても、
運転手がトラックを買えるだけの資金を持っていなければ、成立しない。
この場合も、運転手の所得を高めることで、トラックを所有できるようになり、
結果、創出される価値も増大する可能性が生じる。

このように、資産効果が重要である場合は、
新たな課題と設問が現れる。

①劣悪な行動に対する金銭的なペナルティが不可能な場合、
 どのようにして有効なインセンティブが与えられるか。
②1つの事業から創出される価値をどのように分配するか。
 例えば報酬が効率に影響するとき、報酬水準をどのように決定すべきか。
③組織内部の格差とそれをめぐる競争をどのように処理すればよいか。


雇用インセンティブを与えるための効率性賃金

従業員による誠実な行動に依存しなければならない組織を仮定する。
さらに、背任行為を行うかもしれない従業員に
規律を保たせる手段として、解雇しかないと想定してみる。
この時、解雇の可能性が背任を抑止する条件は何か?
それは、背任によって得る利益、背任がばれない公算、
賃金、外部市場機会という要因に、従業員のインセンティブが依存するというもの。

要するに、背任行為がどれだけばれやすいか。
ばれた時に発生する損失が背任の利得を上回るなら、
割に合わないからやめよう、となるし、
ばれたところで、今の会社辞めてもほかで十分食っていける、
あるいは背任の利得がものすごく大きい場合は防げない。

これらは、高賃金労働者が、低賃金労働者よりも、
より勤勉かつ生産的なのはなぜか、という問いの答えにもなる。
高賃金労働者のほうが背任によって失うものが大きく、
誠実な行動が自らの利益にかなっているからだ。

理論的に言うと、背任を防止する最低限の報酬を効率性賃金という。
効率性賃金を支払うことにより、背任が抑制されることになる。


効率性賃金とインセンティブ

あるときは効率性賃金が使われ、
あるときはインセンティブ支払いが使われるのはなぜか?
それはインセンティブ契約がうまく機能しない場合があり、そのとき効率性賃金が用いられる。
例えば、インセンティブ契約における罰金支払い(ペナルティ)が、
従業員にとって生活できないレベルを意味する場合である。
業績に応じない基本給をい引き上げ、
常にペナルティの支払いが可能な状態を作れば、
業績へのインセンティブは維持できるかもしれないが、
雇用主にとってはその方法は高くつきすぎるため、効率性賃金のほうが選ばれることがある。

また、インセンティブ制度では従業員の業績評価を、雇用主が不要に低く評価して、
支払額を抑える、というモラル・ハザード問題が生じる可能性がある。
しかし、効率性賃金においては、従業員の解雇は賃金の節約にはならないので、
雇用主側のモラル・ハザード問題を解決してくれる。


失業と外部雇用機会

効率性賃金の問題点は、企業が従業員に対して、
外部雇用機会よりも高い賃金を支払わなければならないこと。
この時すべての企業が他より高い賃金を支払うことは不可能だが、
このジレンマを解決するのが失業の存在。
高い賃金は労働に対する総需要を減少させ、
すべての企業が外部雇用機会と比して
より高い賃金を設定できるように、失業が創出される。


効率性賃金理論の他の側面ならびに応用

アダム・スミスによる商人の名誉
アダム・スミスによると、取引量の多い商人ほど、
人を欺くことは利益にならない。
信用を失い評判を落とせば、取引に支障が出るから。

マグレブ商人と評判
背任行為は摘発されても、有利な外部機会に影響が無いのであれば、
動機づける費用は高くなる、というか、裏切らない理由が無い。
背任による利得が損失を上回るから。
信頼できる通信手段が少なかった9-10世紀には、
商人は商品を自分で運んでいた。積荷と共に逃げられるリスクがあったからだ。
しかし11世紀までには回教圏地中海地方に広範な情報ネットワークが形成され、
商人たちが互いに信用情報を照会しあえるようになった。
これによって、信用失墜による損失規模が拡大し、
背任行為を行わないよう動機づけられた。
よって、商人はすべて自ら行うのではなく、
海外の商人をエージェントとして委任するほうがより経済的になった。
物理的な各種資源の費用だけを分析しても、
このような交易関係の変化は説明できない。

企業内でのキャリア・パス
企業内では、より高い将来の賃金が約束されていることで、
忠誠心、誠実さ、勤勉へのインセンティブが保持される。
労働者が有能ならば、所得はキャリアを通じて増加し続け、
最終的には限界生産性を超える
キャリアの初期に機械的で監視しやすく、失敗しても修正がきく
責任の度合いが低い職務を受け持たされるのは、
単純に能力の有無だけでなく、所得も低く動機づけが弱いから。

製品の評判とブランド名
製品の品質を下げながら、それが消費者に知れ渡るまでの
期間を利用して利潤を稼ぐ、という誘惑を防げないという意味で、
薄利は高品質の敵である、という考え方がある。
粗悪品を売りつけ、企業は一定の利潤を得たらその市場から撤退すればよい。
しかし、消費者に品質が直ちにわかる場合や、利潤が十分に高い場合は、
継続的に販売する利益が、品質ダウンによる短期的利益を上回り、
この企業による消費者への背任行為を防ぐことができる。
製品群全体に冠されたブランド名は、品質に対する評判を維持する方法になりうる。
そしてそのブランド名の評判に価値があるから、
声価の定まったブランドを保有する企業は品質維持に努力することになる。


評判の契約執行機能

商取引の発展には、互いに交わした合意が
守られることに対する信頼関係が成立する必要がある。
この契約遵守を保証するメカニズムとしての評判の機能を検討する。


基礎理論:取引が継続する場合の評判

予期せぬ出来事が起きたとき、意思決定がどのように行われるかで、
取引の種類を分類できる。
スポット市場型の取引では、長期的合意などは無く、
契約完遂時点までに環境の重大な変化はほとんど無い。
関係的契約においては、管理職が当事者に指示をするという、
ヒエラルキーや権限関係がある。
だが、時には長期契約のもとでも、権限関係の設定なしに
契約当事者の一方の裁量に任せる場合がある。

例)
・家の改築にあたり、家主は業者に決定権を一定程度ゆだねる。
・企業の従業員は給与と引き換えに上司の命令に従うが、
 上司のフェアさを信じるしかない。

いずれにせよ、当事者の一方が、相手の誠実さや善意を信用しなければならない。
このような状況下での係争は、何が裁量に委ねられた行動として、
誠実かつ適切であるかに関する曖昧さと結びついている。
が、分析の前提として、個々の状況に対して何が最適かは事前に指定できないが、
権限を与えられた人物が適正に行動したか否かを判定することは可能だ、と想定する。


信頼ゲーム

委託者は委託を申し出るか、申し出ないかの2つの選択肢があり、
意思決定者は委託された際に、信頼に応えるか、裏切るかの2択がある。
委託を申し出ない場合は、お互いに何の利得も発生しない。
委託を申し出て、信頼に応えた場合、双方ともに、V の利得を得る。
裏切った場合は、委託者は-Lの損失、意思決定者はV+Gを得る。
上記2プレイヤー間の標準型ゲームを考える。

1回限り行われるものとして考えると、
ゲーム理論の予測に即して言えば、委託者は信頼しようとせず、
意思決定者は委託されても裏切る、だろう。
意思決定者にとっては裏切った場合の利得のほうが多い。
委託者はこのインセンティブ構造を見通しており、
損失Lを回避するために委託しないほうを選ぶ。
したがって双方ともに利得は0となってしまう。


取引の繰り返しとナッシュ均衡

上記の標準型ゲームが、複数回行われるのであれば、
信頼の問題を解決し、信頼関係に基づいた成果の享受を目指すと期待できる。
例えば意思決定者から委託者へ、
信頼を約束し、試してみるように提案があるかもしれない。

意思決定者にとって利得Xを永続的に獲得することと、
現時点で一気に利得NXを得ることが等価値であると仮定する。
Nは取引回数や利子率に応じて決まる。

もし、意思決定者が今回も裏切るのであれば、
即座に背任の利得Gを得るが、以降は信頼されず、取引は成立しない。
逆に信頼に応え続けるならば、NVの利得を得る。
NV>Gが成立しているならば、それ以外の選択肢から得るものは無い。

委託者にとって信頼しないことは得るものが無い。
意思決定者にとっても裏切ることによって利得は増やせない。

このように特定の行動が、どのプレイヤーも自分の行動を
変更するだけでは自分の利得を改善できない状態を、ナッシュ均衡と呼ぶ。
ナッシュ均衡は1つだけとは限らない。

常に委託せず、常に裏切るという状態もナッシュ均衡だ。

相手が裏切らない限り委託者が委託するという、
最初のナッシュ均衡に話を戻すと、
委託者が毎回同じ人物である必要は無い。

意思決定者は各々の取引において、将来の取引先からの委託を取り付けるために、
言い換えれば、誠実であるという評判を維持するために、
裏切らないようにする、といえる。


あいまいさ、複雑さ、ならびに評判の限界

現実では、当事者にとって何が正しい行為なのかについて、見解が食い違う。
意思決定問題において可能な代替策をあげて
何が起こりえたかを検討するのは不可能。

また、ゲームの終局問題がある。
要するに、ゲームが1回限りであれば、委託者は委任せず、
意思決定者は裏切るのだ。
最後のゲームであることが明らかであれば、この状況が再現される。

レント・シーキング、インフルエンス・コスト、ならびに効率的な意思決定手順

経済学ではレントと準レントという概念に集約して表現する。
レントは、収益のうちで、労働者に特定の職を引き受けさせる、
あるいは、特定の産業に企業が参入するために必要な最低限の収益を
超過して発生している差額部分のこと。
準レントは労働者がその職を辞めないようにする、あるいは、
企業がその産業から撤退しないようにするために必要な最小限の額を上回る所得の超過分。

市場への参入に際して負担しなければならないが、
退出しても戻ってこないような費用が存在するため、
レントと準レントには差が生じ、通常、準レントの方が大きい。


公共ならびに民間セクターでのレント・シーキング

レントは効率性の確保にも役立つが、レント再分配を目指して
資源を費やすインセンティブにもなる。
典型的な場合、このような資源使用は、便益を伴わない浪費となりうる。
レントあるいは準レントの移転意外に社会的な機能を持たない活動は、
レント・シーキングと呼ばれ、それが公共セクターにおいて生じるときは、
直接的に非生産的な利潤シーキングと呼ばれてきた。
そして、浪費された資源と歪曲された決定に伴う費用を
インフルエンス・コストと呼ぶ。


組織のデザイン:インフルエンスコストの最適化

自分の利益が当の決定により影響を受ける個人に対して、
意思決定過程に参加する途を開くと、インフルエンス・コストが増大する。
決定により再配分される利益の額が大きいときにこのコストは最大になる。
このコストが参加者拡大に伴う情報量と分析力の向上と比較されねばならない。


コミュニケーションの制限

インフルエンス活動の多くは一種の選挙キャンペーンとなる。
つまり、自らの事情を意思決定者に陳情するのだ。
これを制限するためには、陳情を無視するか、禁止すればよい。

また、コミュニケーションを制限する方法として、
当事者に必要な情報を与えない方法がある。
通常組織では、個人別の給与は公開されていない。
知れ渡った途端、昇給要求が始まるからだ。

一般原則として、レント・シーキングに費やされる時間を限定するため、
レント分配にかかわる決定はただ1度に限って行われる。
いったん決定が下された後は、議論はすべて終えねばならない。


意思決定が分配に与える影響の制限

レント獲得競争を限定するなら、明らかな解決策になるのが、
分配額を等しくすること、もしくは、生じうる差額を限定すること。
法律事務所では経験年数型給与制度が一般的だった。
経験年数が同じ、所属弁護士の給与はすべて同じという制度。
目前の利益に結びつかなくとも事務所の長期的な利益に結びつくような活動に
取り組むことを奨励する上では役立っていた。
が、当然給与面でインセンティブが機能しないため、
収益貢献度の高い弁護士の離脱を招く費用を伴う。


部門の分権化と分離

部門の撤廃や縮小を意図した際に付随する問題は、
影響を受ける部門が自身が存続するように組織の資源投入を求め、
撤退のペースを緩やかにしようという要求行動を起こす点だ。
それに対する解決策は当該部門のスピンオフ、
すなわち親会社から分離し、親会社の資源利用を
要求できないようにすること。

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