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ある職制以上の立場には業績連動給が必要だと思った。 ポール・ミルグロム ジョン・ロバーツ/組織の経済学 第13章:経営者および管理者の報酬

13章は経営者の報酬がテーマ。
米国ではCEOの給与が急速に上昇してきた。
この話題が興味関心を引くのは、やっかみと好奇心が大半だろうが、
そもそも上級管理職の給与は、彼らに託された
会社運営についての動機づけになっているのだろうか??

組織の経済学

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管理職報酬のパターンと傾向

米国のCEOの報酬が群を抜いて高い。
1989年のソニーの経営陣の報酬総額は820万ドルだったが、
これをすべて1人でもらっても、米国の高額所得管理職のトップ10の中には入れない。

米国の大手企業トップと外国の大企業及び米国の中小企業トップとの報酬の差は、
株価に結び付いた長期インセンティブ報酬という要素にある。
米国のCEOが得ている報酬の大部分は直接的な業績給となっており、
総報酬の25%は年間ボーナス、36%は長期的インセンティブとなっている。

中間管理職はこれに比べると、長期的インセンティブのウェイトは相当低い。
基本給の決定基準を見直そうという傾向があり、
それは管理職やホワイトカラーの数を減らそうという動きに伴って起きた。
業績測定が困難であることから、中間管理職の給与のかなりの部分が、
責任の幅と重要性に結び付けられることが多い。
そしてその基準には、管理職に報告する人数の数に基づくことが多い。

しかし、ここに予想に反したインセンティブが生じる。
当人が大きな報酬を勝ち取る唯一の方法は、部下の数、特に上位の部下の数を増やすことになる。
要するにスタッフを追加しようとするインセンティブが働く。
そしてスタッフを追加することが、さらに人員を追加することの正当化につながるおそれがある。
報告者が多くて大変だ→スタッフ追加→報告量増える→スタッフ追加、みたいな循環。
追加されたスタッフが仕事を生み、互いの多忙が連鎖反応を生み出してしまうため、
現在は報告者の数と管理職の基本給水準は切り離す傾向にある。


リスクを冒す動機づけ

株主数の多い大規模企業は、リスクを広範に分散することができるため、
リスク中立的なはずである。
しかし、しばしば管理者たちはリスク回避的な行動をとる。
なぜか?

ひとつの可能性としては、管理者の給与がインセンティブ契約によって
業績(投資)と連動していることにある。
そうなると、彼らはリスクそのものに直面することになるので、
投資リスクに対して回避的な行動をとるというロジック。
ただ、実際インセンティブ契約を行っている管理者は比較的少数であり、
インセンティブ契約がほぼ存在しない官僚的な組織においても、
管理者はリスク回避的な行動をとる。
では、何が原因なのか?

実は給与と投資成果との明示的なつながりが無い場合でも、
「将来の所得」が結びついている可能性がある。
つまり、今までの業績が自らの人的資本を裏付ける、ということ。
この人的資本こそがもっとも貴重な資源であり、
リスキーな投資を実行に移す際に、
リスクにさらされているのは彼らの人的資本なのだ、と言う考え方。
よって、リスクを冒す何らかのインセンティブがないと、
管理者が自分の人的資本をリスクにさらそうとはしなくなるのは当然だ。

適切な検討、承認プロセスを経た上であれば、
報酬は投資結果だけに基づくべきではない。
提案が承認されたことに対して報酬を与えるべき。
ただ、失敗の罰を与えないとなんでも承認させようとしてしまうので、
プロジェクトを提案するグループと、承認、監視するグループは、
企業内でも分けた方がよい。


後払い報酬

しばしば管理者の仕事の成果は出るまでに時間がかかることがある。
自分が仕込んだ種が花開くころに移動させられた場合、
新しい仕事で、前部署の成果が出たことを後から評価してもらうことは難しい。
そうなると管理者が長期的視野に基づいた判断をする理由がなくなり、
短期的な成果を追い求めるだろう。
そこで、後払い報酬という考え方が生まれる。
後払い報酬は管理者に長期的視野を促進する以外に、
離職の阻止という効果もある。

ただし、後払い報酬制度は再交渉を引き起こすという複雑な問題がある。
ひとたび行動をとった後では、所得リスクにさらされる理由がないから。
長期的視野を持って行動しよう→行動した→もうやったんだから所得リスクなくてよくない??
この再交渉をやりはじめると、制度の意味がなくなる。
後払い報酬制度のインセンティブを活かすには、
コミットメントを行ってそれを固守する必要がある。


CEOの業績給

CEOの給与は業績を反映しているという証拠は多い。
問題はその繁栄の度合いが適切かどうか。
上級管理職の報酬は取締役会で決まる。株主には発言権はない。
取締役は、経営幹部の報酬を取締役会に勧告する報酬委員会を指名する。
これは通常社外重役だけで構成されることが多いが、
CEOはこの委員会のメンバーであることが普通。
法人役員は自らの報酬の決定に関与できず、
CEOの勧告に基づいた審議を報酬委員会が行い、取締役会に勧告するという流れ。
そして報酬コンサルタントがCEOによって雇われることもあるという。

しかし批評家の多くは上記の仕組みは管理職自身によって
自分たちの利益のために操られていると批判している。
事実、社外取締役も役員たちと密接なつながりを持っている可能性が高い。


上級管理職が直面する職務と誘惑

上級管理職は決定に関して極めて広範な責任、許容範囲、自由裁量を持っている。
したがって、インセンティブは懸命に仕事をするといった行動の一面だけでなく、
時間と注意力をいかに配分するかという面にも配慮する必要がある。
さらに望ましい行動が明らかであっても、それが追求されるかは別問題。
無慈悲な人間と思われるような意思決定も決断できるか?
収益性が乏しくとも自らの支配権につながるような投資や企業買収を断念するか?
などなど様々な問題があるので、経営者の行動を方向づける試みは明らかに困難を伴う。

そこで、価値最大化原理に立ち返ってみると、問題は割合シンプルになる。
要は、経営者は価値の最大化を目指すように方向づけられるべきなのだ。
そして、企業の価値を市場が反映できていると仮定すれば、
市場価値最大化が求められる。

そのための適切な報酬が支払われているかという議論に関しては賛否両論。
報酬が高すぎるという非難もあるが、投資銀行などのほかの業界と比べて低いという指摘もある。
他業界よりも低いと最も優秀な人材を引き付けられないという指摘も。
業績と給与の感度が適正なのかどうかは、結論が出ていない。

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