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マネジメントと民主主義の決定的な矛盾から目を逸らしちゃいけない。 ジェームズ・フープス/経営理論 偽りの系譜

経営学と言うものを何となく学んではいるものの、当然そこには歴史がある。
でも、正直、経営学の歴史を意識したことはなかった。
本書はそんな経営学の歴史を辿りながら、経営学の理想と欺瞞を指摘していく。
テーマはとてもシンプルで、なんで過去のマネジメント理論は通用しなくなったのか?
何を考え、どこに限界があったのか、そんな視点で綴られた本。

本書は人材マネジメント系の授業で紹介され、興味を持った。
確かに経営学の歴史は組織や人のマネジメントに関する思想の歴史だったので、
そういった授業の中で紹介されると言うのも納得。

経営理論 偽りの系譜―マネジメント思想の巨人たちの功罪

経営理論 偽りの系譜―マネジメント思想の巨人たちの功罪

マネジメントという必要悪

個人の自由と民主主義に対して、個人を経営者と言う権威に跪かせるマネジメントは、
本質的な部分で決定的に矛盾している。
が、テイラー以後の近代経営学は、この矛盾を直視してこなかった、というのが筆者の指摘。
まぁ、たしかに言われてみれば思いっきり矛盾している。


テイラー、ギルブレス夫妻&ガント

工場労働者の作業効率向上のための手段として開発された
科学的管理法は、トップがしっかりと労働者を管理するという
トップダウン型の考えに基づいていた。
効率を支えるのはマネジメント・コントロールだ、という考え方。
言われてみればこう言った考え方は現在のマネジメント理論からすると主流ではない。
ただ、今なお作業の効率を高めると言った部分では残っているのも確か。
それはテイラー主義の不必要な非情さを、後進が和らげていったから。
ギルブレスは動画を用いて、より高い精度で作業の所要時間を把握できた。
またストップウォッチでの計測よりも、より行動にフォーカスを当てた改善に繋がった。
無駄な動きを排除し、唯一最善の作業方法へ導くと言うやり方。
ガントは、科学的管理法にボーナス制度を組み合わせ、この手法の実用性を高めた。
また、経営者が富を創造せず、自分の利益のために道徳に背いて
権力を用いるという不公正を、技術者にトップダウン型の権力を
与えると言う形で解決しようとしたが、うまくいったとは思えない。
代替案として出てきたのが、協同組合的なボトムアップのマネジメントだった。
作業効率が全ての工場などでの管理手法としては有効なのだろうが、
ホワイトカラーの管理手法としては通用しないのだろうな。


メアリー・パーカー・フォレット

リーダーは部下を率いるだけでなく、自分が従う立場になることもある。
経営者と従業員の間に心理的な溝を作らない考え方で、
利害や期待を調和させることで各人が成長できると考えた。
ようするに、そもそもが経営者と従業員は相互依存なのだという考え方。
これはテイラー主義とは全然違う発想。
相互依存の中でどうやっていくのか、これは現代に通じるものがある。


エルトン・メイヨー

トップダウン型権力の必要性と危険性の両方を軽視して、経営者をセラピストと見なした。
それによって、経営者は従業員を操作できる、という発想を生んだ。
テイラー主義のような冷徹な管理ではなく、操作。
争いを恐れ、従業員との利害は一致すると言う理想を描き、
職場での最大の報酬は、金銭ではなく自然発生的に生まれるコミュニティだと考えた。
さすがに経営者にとって都合が良すぎる夢物語過ぎるだろうと思うが、
アメリカにもこう言う発想が成立し得るのだな、と言う所が面白かった。
こういった考え方が、民主的な社会と調和するマネジメント風土の情勢に繋がったと言われると、
途端に歴史の重みを感じる。


チェスター・バーナード

「たとえどれほど才能ある人でも、大勢が力を合わせて成し遂げた仕事には到底かなわない。」
「権威は虚構であって、パワーはボトムアップで涌き上がってくる。」
完全にボトムアップ型思想のマネジメント。
冒頭のテイラー主義とは全く違う。マネジメントの根幹にある思想は何なのか、
それによって随分アウトプットが変わってくる、ということ。
自分ならどう考えるのか、歴史を振り返ることは示唆に富む。


W・エドワーズ・デミング

統計的な手法を用いた統計的品質管理(=SQC)のパイオニア。
戦後日本の製造業にこの考え方を教えたのもこの人。
今となっては日本企業のお家芸のように思っていたけれども、
そんな舞台裏があったとは知らなかった。
デミングの考え方は従業員の心を操作するのではなく、
客観的な労働条件を改善することで満足度の向上を図ろうとするもの。
これは他のマネジメントの大家とは一線を画す所。
人間のパフォーマンスに焦点を当てたテイラー主義を強く批判した。
結局統計的手法の助けがなければ、何かあった時には必ず人か機械が悪いせいにされる。
トラブルの原因は史恵さんシステムに潜む共通原因である可能性があり、
それを改善するのが経営者の仕事なのに、パフォーマンス中心主義ではそういった発想に至らない。


ピーター・ドラッカー

企業は社会に対して責任を持つのではなく、企業こそが社会。
あるいは少なくとも社会を代表する組織、と考えた。
著者によれば、ドラッカーが他のマネジメントの大家に比べ、
倫理的に優れている点は、マネジメントはいずれ正当性を獲得すると信じたからではなく、
むしろ、経営者がトップダウンの権力を行使していることを、道理にかなったものではないと認めた点にある。
この、マネジメントと民主主義の根本的な矛盾を認めていると言う点が違うらしい。
それが本当かどうかは正直分からない。
この本もドラッカーに関する章は、なんかモヤモヤしている気がする。
ただ、一時期下火だったドラッカーが近年また注目を浴びつつあると、教授が言っていたことを思い出した。
この後自分がどういったマネジメントを実践していくのか、
少なくとも何となくできるもんではないことが分かったのが良かった。

経営理論 偽りの系譜―マネジメント思想の巨人たちの功罪

経営理論 偽りの系譜―マネジメント思想の巨人たちの功罪