金融の授業で参考図書になっており、
な~んも知らなかったので読んでみた。
リーマン・ブラザーズの破綻によって顕在化し、
市場が大混乱をきたした一連の流れを、数百人のインタビューをもとに
丁寧に追いかける渾身のドキュメント。
あの時何が起きていたのか、緊迫する様子が良くわかる。
結果的になぜリーマンだけがつぶされたのか、その違和感が残る。
その後の救済を考えると、リーマンもつぶさないほうが
影響は少なかったのではないか、と思わざるを得ない。
多分、間が悪かったのだろうなぁ、とは思うのだけど、
明暗はちょっとしたことで変わるし、時に理不尽なことも起こり得る。
清濁併せ呑む、そんなことを思った。
リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち
- 作者: アンドリュー・ロス・ソーキン,加賀山卓朗
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07/09
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 323回
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リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下) 倒れゆくウォール街の巨人
- 作者: アンドリュー・ロス・ソーキン,加賀山卓朗
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07/09
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 62回
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そもそも投資銀行の救済が扱いづらい
伝統的な銀行の場合、連邦預金保険公社(FDIC)や連銀が効率よく破産から守ってくれる。こうした機関には、経営困難な銀行をとどこおりなく財産管理下に置き、競売にかける移行の仕組みが備わっている。しかしFDICは、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、べア・スターンズ、リーマン・ブラザーズといった投資銀行に対する権限は持っていない。それらを管轄する、FDICに匹敵するような権限が財務長官に与えられないかぎり、市場は大混乱となる可能性がある、と彼は会合中に指摘した。
上巻 P.71
銀行に対しての救済策は元々用意されていたが、投資銀行の救済策や規制策が準備できてなかった。
サブプライム市場の混乱がベア・スターンズなど投資銀行のポートフォリオの悪化を招き、
気づけば連鎖倒産の危機に。でも投資銀行を管理する権限や制度がない、こりゃ大変だ、という話。
ちなみに財務長官のポールソンはゴールドマン・サックスの元CEOで、
投資銀行業界のことはよくわかっていた人物。ただ、本書を読んでいると、
ゴールドマンの元CEOだった事が、かなりのやりづらさを招いている印象。
ゴールドマンと接触することは禁じられるし、何するにしても裏があるのでは?と勘繰られる。
「われわれには自立したモルガン・スタンレーが必要だ」ポールソンは言った。けれどもナイスは、モルガン・スタンレーを守りたいというポールソンの意向を、もっとシニカルにとらえた。「彼がわれわれを助けようと思うのは」とマックに言った。「助けなければ、ゴールドマンを失うからだ」
下巻 P.233
と、こんな感じ。ゴールドマン・サックスの陰謀説がまことしやかに語られることも。
業界の人間だったが故に、投資銀行のCEO達も疑心暗鬼になってしまうというのもわからんではない。
バフェットってすごいな
最悪のピンチの時に必ず頼られるのがバフェット。
ただ、そのバフェットは結構冷静。
ウォール街と距離を置いたスタンスがすごい。
疑問が多すぎる企業には、たとえその答えが用意されていたとしても、投資してはならない。
上巻 P.81
で、気づくと絶対に損しないような案件が舞い込んできて、
そこから始めて動き出す。その立ち位置を保ててるのがすごい。
ポジショニングの巧みさなんだけど、それは彼がリソース(資源)を
持っているからできることであって、という戦略論の基本を思い返してみた。
連鎖倒産の危機
もはや銀行はただ金を貸して帳簿につけているだけではない。貸付は業務のたんなる起点であり、何千何百とは言わないまでも、何十という当事者に貸付リスクを分散する“証券化”の鎖の最初の環だった。証券化はリスクを減らし、流動性を高めると考えられていたが、現実に発生するのは、数多くの機関と投資家が良かれ悪しかれ密接に結びつく状況だった。
上巻 P.123
密接かつ複雑に結びついてしまっていたことがこの危機の恐ろしい所。
従って、1つ倒れると連鎖的に倒産が続き、金融市場が崩壊する危険があった。
完全な自由競争の世界からしたら、それがどうした、潰れてしまえって話なんだろう。
これがもし、本当にそうなっていたらどうなったのだろう?
稼ぎまくってた投資銀行が全部潰れてちょっとざまーみろな感じになっていたかも。
もし、リーマンのCEOがもう少し・・・
CEOの態度と行動次第では破綻は防げたのかも?
彼なりにベストは尽くしていたのかもしれないが、
少々自体の認識が甘かったのかもしれない。
ファルドにとって、これ-愛する会社を手放すこと-は提示できるなかで最大の譲歩だった。
ダイアモンドにとっては、いささか困惑した瞬間だった。ファルドが居残るとは一度も想像していなかったからだ。むしろ居残ってほしくないのが本音だった。
下巻 P.26
と言う具合にちょっと勘違いしてた所が致命傷になった気がする。
この結末を想像できていたら、もう少し最初から必死になって交渉に臨んだだろうし、
強気発言で交渉をパーにすることもなかっただろう。
本当にちょっとした舵取り一つで会社は潰れるという典型。
SECがわれわれに破産を申請しろと? 連銀が? いったい何かどうなってる? 政府が一民間企業に破産を宣言しろ -社の扉に“廃業”の看板を掲げろ- と命じたことなどかつて一度もないはずだった。
下巻 P.129
で、結局はこういう事態に。
1株10ドル以上じゃないと売らない、とか、ベア・スターンズよりは
良い条件じゃないと、といったこだわりが仇となってしまった形。
最後はどこかに政府がなんとかしてくれると言う気持ちがあったのかもしれないし、
結局この後AIGやら何やらを救済することを考えると、
リーマンもなんとかしておいた方が懸命だったように思われる。
いや、むしろここだけ潰したのが不自然に見えなくもない。
金融業界の予想は自己実現的
問題は明らかだった。リーマンには資金がない。月曜までに解決策が見つからなげれば、残っているなけなしの金を投資家たちから要求され、立会開始のベルから数分で破産する怖れがある。そうなれば、今度は金融システム全体が危険にさらされる。リーマンの取引相手の投資家たちが決済できなくなり、次々と連鎖反応を引き起こして大災害につながりかねない。
下巻 P.41
取り付け騒ぎの恐ろしさは、危ないんじゃないか、という噂だけで十分だと言うこと。
実態としてはまだまだ持ちこたえられるレベルだったとしても、
あの銀行は危ないらしい、という噂が流れ、皆が預けていた金を引き出すことで、
現金がショートし潰れてしまう。
つまり、噂が自己実現してしまう。
異論は色々あるのだろうが、批評家は好きな事が言える。
JPモルガンのCEO、ジェイミー・ダイモンが、ポールソンに送った手紙がちょっと良い話。
ルーズベルト大統領の「共和国における市民権について」という演説からの引用らしい。
重要なのは批評家ではない -力ある者がどうつまずいたか、偉業をなしとげた人間がどこでもっとうまくやれたかを指摘する人間ではない。名声は、現に競技場に立つ男のものだ。果敢に闘い、判断を誤って、何度も何度もあと一歩という結末に終わり -なぜなら、まちがいも欠点もない努力など存在しないから- 顔はほこりと汗と血にまみれている。しかしその男は、真の熱意、真の献身を知っており、価値ある理念のために全力を尽くす。結果、うまくいけばすぐれた功績という勝利を得る。しかし、万一失敗に終わっても、それは少なくとも雄々しく挑戦したうえでの失敗である。だから彼の立場が、薄情で臆病な、勝利も敗北も知らない者たちと同じになることはありえない。
下巻 P.357
これは自分も肝に銘じておこう。
批評家にならず、常に当事者意識を持って臨むこと!
リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上) 追いつめられた金融エリートたち
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