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出版市場における文庫の重要性を明らかにする論稿 岩野裕一/文庫はなぜ読まれるのか

ハードカバーで刊行された新作が、数年後文庫化される。
これが出版業界の典型的なパターンだ。
文庫化されるまでには大体刊行から3年程度経過しており、
ちょっと前の話題の本が文庫になっている程度の認識だった。
しかしながら、実際は文庫の方が圧倒的に部数が出ているのだ。
そんな意外な事実と文庫の重要性が丁寧に説明されている本。
目からうろこの情報も多く、大変勉強になった。



文庫はこれだけ売れてる。

内田康夫氏の累計部数1億の内訳。

2007年1月現在で「作品総数144 冊(長編小説114冊、短編集9冊、その他2冊)、発行部数約1億30万部のうち、四六判約680万部、新書判約1920万部、文庫判約7430万部」になるという。
P.4

つまり、圧倒的に文庫が占める割合が多い。
市場全体でどれくらいの割合を占めるかというと↓

販売部数で30 パーセント、販売金額で15 パーセントのシェアを占める
P.18

文庫は取引条件も違う

1975 年からは一般の書籍よりも正味が低い「文庫正味」という制度が設けられた。文庫は低価格で書店にとっては利幅が薄いため、正味を下げることで書店のマージンを増やしたのである。さらに84年には、文庫本発行出版社の増加にともない文庫正味の見直しが出版社個別に要請され、翌85年7月までに1~3パーセント引き下げられた。
P.21

単価が低い分、率を少し変更している。
ただ、文庫化されている時点である程度の売れる見込みは立っているはずで、
売れるかどうかわからない、というかほとんど売れない新刊書籍に比べれば、
確実な商品だと言えるわけで、必ずしも率の優遇は必要じゃないんじゃないか?とも思う。


雑誌は効率の良いビジネスモデルだった

出版社にとっては、雑誌ほど効率のよいビジネスモデルはなかったといってよいだろう。書籍であれば、同じ出版社から発売されたものであっても一点一点内容がすべて異なり、読者対象も追ってくるので、営業担当者が全国の主要書店に足を運んで商品説明を行い、新刊を平積みにするよう依頼して、場合によっては拡販川のパネルやPOP なども用意した土で受注しなければならないが、それでも初版部数は多くて数万部単位である。かたや雑誌は、編集部門に経営資源を集中的に投入してよいものを作り、ひとたび読者に認知されてしまえば、営業は最小限の人員でまかなうことができた。なにしろ、取次の物流ネットワークを通じて毎週、あるいは毎月、数万部から数百万部の雑誌がスムーズに全国津々浦々へと流れていき、発売囗を心待ちにしている読者のほうから書店に足を運んでくれるのだ。さらに、ある一定の世代や性別、あるいは共通の趣味や関心をもった読者層をつかむことで、出版社には広告収入というきわめて効率のよい収益がもたらされたのである。
P.147

現在の雑誌不況からすると信じられないが、
雑誌のビジネスモデルの原点にはそんな効率の良さがあったのだな。
雑誌自ら特集主義になったりしていて、雑誌の良さを自分で殺しているかも?
それと広告収入がないと成り立たないくらい依存しきってしまったことも難点。

また、これ読んで気づいたけど、雑誌は出版流通の要になっている。
従って、雑誌の長期低迷は出版流通のシステムそのものも揺るがす事態。
坂道を転がり落ちるように部数を減らしまくり、いよいよやばいところにまで来てしまっている。

現在出版界を襲っている「出版不況」というものが、実は雑誌販売の急激な落ち込みに端を発しており、それは単に売り上げの減少という問題に留まらず、戦後の出版業界を支えてきた雑誌中心のシステムそのものが崩壊の危機に瀕していることがわかるだろう。(中略)
取次にとっても、定期的に刊行される雑誌を、いかに効率よく、迅速かつ正確に書店に届けるかということが最大の経営課題であり、雑誌中心に構築したネットワークに書籍が相乗りするというのが基本的な物流の形だった。
そもそも雑誌は書籍にくらべると品目が少なく、発売囗も決まっているので流通量も予測可能だが、書籍は多品種少量生産で、売れるものと売れないものの差が激しく、発売日の変更や遅れにも対応しなければならないために物流の効率は非常に悪く、それゆえに取次は雑誌流通を主たる収益源としていた。
それは書店にとっても同様であり、回転率の早い雑誌を定期的に買いにきてくれる得意客がいることが書店経営を長らく支えてきたわけで、全国で中小零細の書店が次々と閉店に追い込まれたのは、「メシの種」であった売れ筋の雑誌をコンビニエンスストアに奪われたことが殼大の原因だったことは想像に難くない。
P.148