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業界の嫌われ者だとしても、ブックオフはそれなりに画期的な存在だったと思う。小田光雄/ブックオフと出版業界

出版業界を憂う小田氏のブックオフ研究本。
出版業界の人がブックオフをどう捉えているのか、
言葉の端々から伺えて面白い。

再販制度こそがブックオフを初めとする
新古書店の成長の原動力になっている、という指摘は
確かにその通りだと思うが、ブックオフ
蛇蝎のごとく嫌っている雰囲気が全開なので、
もう少し落ち着こうよ、と思わんでもない。

ブックオフのビジネスモデルはやはり画期的だったのだと思うし、
ブックオフがやらなかったとしてもいつか誰かがやっていた可能性は高い。

ブックオフと出版業界 ブックオフ・ビジネスの実像

ブックオフと出版業界 ブックオフ・ビジネスの実像


文化財?消費財?

ブックオフにあっては、従来の古本屋と異なり本は文化財ではないし、単なる消費財であり、中古リサイクルビジネスの道具となってしまっている。その夕ーゲットとしてたまたま本が選ばれたのであり、ニュービジネスに利用されているだけなのだと思います。
P.115

気持ちはわかるんだけど、でも結局出版業界が衰退の一途をたどっているのは、
本が消費財であると言う側面を軽視してきたからではないのかな。

文化財の側面もあるし、消費財の側面もあるはずなのに、
多くの出版業界の人たちは自分たちが文化財を作ってる気になってるし、
いい物を作ってるのに売れない、みたいな自己満足の世界に生きている気がする。


再販制度ブックオフ

「われわれのような商売にとって、本の定価を維持している再販制度は神様、仏様です。
ハマの大魔神ならぬ再販制度維持神社でもつくろうと思っています(笑)」

-- 本当にいわれたもんですね。再販維持論者たちはこの声をどう聞くのかしら。この坂本孝の発言はブックオフの成長を支えたものこそ再販制に他ならないことを告げている。皮肉なことに九〇年代において再販制ゆえにブックオフが成長し、出版社・取次・書店という近代出版流通システムが衰退、危機を迎えているということになる。
P.115

新刊の値引き販売が制度上不可能だから
新古書のビジネスがやりやすいってのは確かなんだけど、
再販制度が無くなればすべて解決するのかってのとは別問題。
ブックオフのビジネスモデルは良くできている、という話。


不正返品の指摘

①スリップが挿入されていなかったり、別のスリップが挿入されている。
②カバーが無かったり、別の本のカバーがかかっている。
③印やスタンプが押されていたり、押したものを消去してある。
④「マンガ喫茶」のスタンプが押印されているコミックス。
⑤読者購読後の書籍・コミックス。
⑥高額販売促進費(報奨金)支払い対象書籍からスリップが抜き取られている。
P.143

新刊書店を経営している会社が、同時にマンガ喫茶
新古書店フランチャイズも経営するというケースが出てくる中で、
不正返品が発生していると言う指摘。
マンガ喫茶新古書店の在庫を新刊の返品ルートに乗せて換金したり、
客に売れたわけではないのにスリップを抜いて販売の報奨金だけ獲得、
在庫はマンガ喫茶などに回してしまう、といったやり方が想定できる。
こういった不正は工夫でもなんでもなく、厳しい態度で臨まないといけないと思う。


神話のベール

ブックオフの坂本社長は、たまたま通りかかった横浜の「ぽんぽん船」というコミックスと文庫本を中心とした新タイプの古本屋を見て、経験がまったくないのに、九一年に相模原市で開業したと伝えられている。
実際は、坂本社長は「ぽんぽん船」を経営する多角化経営の三基商事の渡瀬芳信社長と一緒に不動産事業の仕事をし、「ぽんぽん船」の運営をよく見ていて第一号店開店のときは「ぽんぽん船」の社員が出向して店づくりを手伝い、コミックの仕入業者も「ぽんぽん船」から紹介されたという経緯がある。
ズブの素人が誰の助けも借りず、いきなり本屋を始めて大成功したというのは出来すぎた伝説である。
P.183

ブックオフは素人でもできて、高い利益率を確保できるというのが売り文句であり、
創業者の坂元氏自身の成功自体がまさにそうである、という訴求を
フランチャイズに際してしていたのだけど、実際はそんなことは無いと言う話。
まぁでもこういうのは重箱の隅をつつくような話で、果たして意味あるのかは疑問。
ビジネスとして拡大していく中である種の神話が形作られていくのはどこにでもあるような話。
実際、企業経営をしていく中で多くの人間を束ね、そのオペレーションを徹底していく過程は
傍から見ると洗脳じみていると言うのもよくある話なわけで。
何もブックオフと坂元氏だけが特異なわけではない。

坂本孝の思考や発言は様々な先行する企業のイデオロギーのパッチワークからなっているといいましたが、これらの経営理念や六つの精進というのは京セラの稲盛和夫からきています。
人生の結果=考え方X熱意×能力、この方程式に集約できるというのが稲盛哲学で、背後には「生長の家」の谷口雅春中村天風安岡正篤といった人々の思想とニューエイジ思想が見え隠れしている。坂本孝も稲盛の主宰する盛和塾に参加しています。それは新興宗教のような呪術性があるといいます。その実態をノンフィクションライターの斎藤貴男カルト資本主義といい、その特質を次のようにあげています。
P.210

まぁ、京セラも、トヨタも、花王も、多かれ少なかれやっていること。
それは経営者からビジョンとして語られ、特殊な価値観の中で動く組織を形作っていく。
組織におけるダイバーシティ多様性)の重要性が語られる裏側には、
ビジョンの刷り込みといった均質化に向けた行動があるからなのかもと最近思うようになった。
少なくとも出版社にはそういった刷り込みは無いし、こういうものに違和感というか
嫌悪感すら感じるっていう気持ちは良くわかる。
カルト資本主義」というネーミングは言い得て妙だし、斎藤氏の著作も読んでみたくなった。

カルト資本主義 (文春文庫)

カルト資本主義 (文春文庫)


その他メモ

ブックオフの場合、加盟料が二〇〇万円、保証金二〇〇万円、商品代金が一四〇〇万円。このへんは同業のテイツーと比べても相当高いですね。それと棚と店舗内外装で二〇〇〇万円。これに建物を借りる保証金などがありますから六〇〇〇万円近い金額が必要になる。一軒のフランチャイジーから、加盟料、入会金、それと商品や内装のマージンを加えると、本部にはだいたい1000万近いペーパーマネーが入ってくることになる。そうすると、今フランチャイズで三五〇店舗ほどあるから単純計算すると四〇億近い金が入ってきたことになる。
P.225

まぁこういう数字の話はへぇ~ってなるので面白い。

ブックオフ創業した一九九〇年代はその商品がまだ玉石混淆の要素があり、一〇〇円棚に思いがけない本があったりして、何か安く拾えるのではないかとの期待感が成立した。それは誰しもが認めることだと思う。そのかたわらで出版業界は大量生産、大量消費、大量廃棄の本を垂れ流し始め、ブックオフに吸収されつつあったが、その全国展開によってそれまで眠っていた古本が膨大にかき集められた。そして旧の古本と新の古本のバランスによって商品構成がなされた。だからブックオフでセドリをする人々が出現したのであろう。しかしニー世紀に入ると、旧の古本は払底してしまい、新の古本だけの商品構成に向かう傾向になった。それがブックオフにおける九〇年代から二一世紀初頭にかけて起きた現象、もしくは変化だったのではないか。

- そういえば、かつてはかなりいたブックオフでセドリをする古本屋とか、いい本を見つけたという人の話を聞かなくなった。
P.263

まぁだからと言ってブックオフが駄目になったわけでもない。
ある程度の本好きにとって思わぬ掘り出し物に遭遇すると言う
わくわく感が低減してきただけで大部分のマスなユーザーにとって
そういうのはどうでも良いことなんだと思う。

ブックオフと出版業界 ブックオフ・ビジネスの実像

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