ビジネス書大好きMBAホルダーが教える私の学びシェア

本を読んでそこから新しい知識を得たり、学んだりすることが大好き。学びたい、成長したいという意欲のあるビジネスマンの皆さん、一緒に成長しましょう。

M&Aの理論的な整理として読んだけれど、読む人のレベルによってそれぞれ学びがありそう。宮島英昭/日本のM&A

M&Aの理論的な整理として読んだけれど、読む人のレベルによってそれぞれ学びがありそう。宮島英昭/日本のM&A

まったくもって本業とは畑違いなのだけど、
今後やりたいことを考えると最低限の知識は得ておきたいと思って勉強中。

前半は論文集めた構成で、初学者としてはしんどい。
後半は事例研究なので少しとっつきやすくなる。

結構有名な本らしく、金融系の友人に聞いたら、
それ読んだことあるよって言ってた。

全然理解できていないんだろうなぁ、というもやもやした読後感なのだけど、
改めてメモしたところをまとめてみるとそれなりに学びはあった。
本業とは遠いところほど、学ぶ意志を持ち続けることが大切と改めて実感。
もう少し知識を得た上で再読したい。

日本のM&A―企業統治・組織効率・企業価値へのインパクト

日本のM&A―企業統治・組織効率・企業価値へのインパクト


買収後の効率化、目的など

企業価値の創出の点でより重要なのは,管理部門の経費の共有化によるコストの節約,設計,研究開発部門の共通化,重複部門の廃止などによって生み出される統合効果であり,産業レベルではしばしば集約を伴う。
P.7

水平統合の場合、当然組織や設備の共有化によるコスト削減という発想になる。
ただ、これが本当に共有可能なのか、が難しい。
経理や総務は比較的簡単かもしれないが、研究や営業などは、
思惑通りに統合できないケースも多い。
何を持って統合or分化を決めるのか、判断のために必要な情報は何かを
検討段階から意識して進めないとPMIで大失敗なんてことになりかねない。

Coase (1937) の定式化以来,広く受け入れられているとおり,企業にとって市場による取引は,情報コスト,交渉コスト,取引の維持コストなどを伴い,そのため,企業は垂直的なM&Aによってこのコストを節約することができる).したがって,外部環境が変わって,取引コストが増加すれば,下流,または上流の企業を統合することの合理性が高まる.
P.7

一方こちらは垂直統合の話。
水平垂直ともに、そう言った動機を持つことの合理性は裏付けられてる。
ただ、理論と実践は別問題なのだと思うけど。

水平統合、垂直統合の他に、新規投資の代替手段としてのM&Aもある。

M&A によって,買収側が安価でかつスピーディに必要な経営資源(ノウハウ,生産技術,新たな経営手法,新たな製品ライン,販売網)を確保できれば,それが買収企業のコアコンピタンス(中核的競争能力)を強化し,企業価値の上昇につながる.ここでM&Aは,買収企業にとって新規投資(グリーンフィールド投資)の代替として展開され,戦略的M&Aとも呼ばれる.こうした戦略的なM&Aでは,同時に補完的な投資が行われるため,しばしば産業の拡大をともなう.
P.8

これは時間を買う、といった面もある。
一から自分たちでやるよりも買ってしまった方が早い、というパターン。


信頼の破壊

この暗黙の契約の破棄によって,長期的に見れば,企業ないし関係特殊的な熟練の形成に対するインセンティブの提供といった社会的価値を持つ暗黙の契約自体の持続可能性を大きく減ずることとなる.ただし,実証的には,この信頼の破壊を直接観察することは難しく,これまでこの点に関する実証研究は十分に進んでいない.
P.13

買収された会社の暗黙の慣習や企業文化がすべてなかったことにされるケース。
例えば年功序列の長期安定雇用が前提だったところを、
一気にそんなの関係ないよね、となると信頼の破壊、が起きる。
これって非常に難しい問題。
何を変えて何を変えないのか、相手の企業文化や風土などはセンシティブな問題。
もちろん、何も変えないわけにはいかないのだと思うけど。

信頼の破壊(breach of trust) によって企業価値が向上したとしても,それは合併によって新たな価値が創造されたのではなく,従業員から買収者に価値が移転しただけである.また,このような議論は,敵対的買収だけではなく,経営者の交代を伴う買収においてもある程度当てはまる可能性がある.
P.176

重要なのは、業績上、企業再生を遂げたように見えるけれど、
実態は信頼の破壊をベースにした改善というパターンがありうるということ。
ただ、この場合、新たな価値を創造したのではなくて、
従業員から搾り取って価値を移転させただけ。
ファンドは業績の回復が見える形にして転売しようとしてくるけれど、
こういう会社を買ってしまうとものすごく痛い目を見る。
ふたを開けてみたら組織も人もぼろぼろ、ってこと。


トービンのq理論

Jovanovic and Rousseau (2002) は, M&A は企業によって行われる投資の形式の1つであり,トービンのq理論によって説明できると主張している.すなわち,企業価値に対する資産の再取得価値の比率で測られる卜一ビンのqが上昇するほど,企業のM&Aが行われる可能性が高くなるのである.高いqに示される高収益企業は,qの低い低収益企業に比べて,経営面,操業面でのノウハウの水準が高いと想定されることから,この関係が確認できれば, M&Aが組織効率の向上に寄与した可能性が高いと考えてよいであろう.逆に,本業の成熟化の結果,成長可能性を失った企業が, M&A を実施するとすれば, M&A が組織効率の上昇に寄与しないリスクが相対的に高い.
P.48

買収する側の企業はトービンのqが高い企業ほどM&Aを行う可能性が高くなる。
買収される側はトービンのqが低い企業の方が買収されやすい。
上記の組み合わせだと、買収することで被買収企業の効率を高め、
再生させるといった話につながりやすい。
でも買収する側が本業の成熟化で打つ手が無くなり、M&Aを行うとすると、それはうまくいかないリスクが高い。
まぁ、小難しく言っているけれど、当たり前のこと。
ただ論文として、どういった指標を持ち出して当たり前のことを
観測するのかというロジックは勉強になる。


国内企業のM&A事例

プロビット・モデルの推計結果から,日本企業が国内企業を買収する場合には,収益率が低く,負債比率が高く,輸出比率の低い企業をターゲットとする傾向があることがわかった.このような行動についても,2つの説明が可能であろう.第1に,国内企業間のM&Aの多くは,経営が立ち行かなくなったグループ内企業を再編・救済することを目的とし,このため,パフォーマンスの悪い企業が買収対象となるのかもしれない.第2に,国内企業間のM&Aの場合には,既存の経営者が株主利益の最大化や効率的な経営を目指さないなど経営規律が欠如していたり,コアとなる経営資源の蓄積に失敗していたりするために,パフォーマンスの悪化した企業が買収され,経営規律の回復や経営資源の投入が図られているのかもしれない
P.98

日本国内のM&Aというと確かにこういったイメージだし、こういう案件が数としては多そう。
ただ、本書刊行後にもう少し積極的なM&Aも増えてきている気がする。
TOBブームは落ち着いた感があるけれど。


子会社を親会社が買収する理由

親会社による経営の自由度を高めるため,あるいは意思決定のスピードを上げるためである.実際,完全子会社化を株主に公告する文書には,ほとんど例外なくこうした理由が挙げられている.他に株主が存在する場合には,重要な決定事項は株主総会の議決によらなければならないこと,少数株主の権利が法律・制度上保証されていることなどのために,たとえ過半数の株式を握っている場合であっても,親会社は株式を100%所有している場合と比べて制約を受ける.さらに,子会社株式を上場している場合は,上場ルールを守り,そのうえで株式市場における評価を考慮しなければならないという制約が付け加わってくる.したがってこれらの負担を上回る便益が認められなくなると,親会社は完全子会社化に踏み切ると考えられる.
P.154

会社は株主のものなので、100%株を保有している場合じゃない限り、
何かしらの制約が発生する。
そのデメリットが経営上一定の閾値を越えると、だったら完全子会社化してしまえ、となるのだろう。


ストック・オプションなど

ストック・オプションを役員に付与することがほぼすべての企業に広がり,経営者の利益と株主利益がリンクするようになった.また,役員報酬の個別開示によって取締役会の監督機能の透明性が確保され,取締役会の監督機能が強化された.さらに,委任状争奪が筒単にできるようになり,機関投資家などのモノ言う株主の圧力が一層厳しくなった.ストック・オプション普及の効果として,米国企業は常に株価を意識して,絶えずリストラを心がけるようになった.こういった対応の結果,1990 年代に入ってからのM&Aは依然として活発だが, LBO敵対的買収が大きく減少した.
P.203

ストック・オプション=経営者と株主の利害を一致させる試み。
TOBよりも物言う株主になる方が増えているらしい。
そういえば村上ファンドも昔はTOBを仕掛けて話題になったけれど、
今は物言う株主路線らしい。


効率化には限度がある

規模の経済にはおのずと限界がある個別の製品,工程のレベルにおいては「最小最適規模」(minimum efficient scale) という概念があり,それは,実質的に規模の経済の効果(生産量拡大に伴う平均コストの低下傾向)が消失する最小の生産量を表す.例えば,乗用車の場合,組立工程で年産20万台(1分に1台,1日2交替に相当),部品やエンジン加工,プレス成形を勘案すれば年産40 万~50 万台が最小最適規模の1つの目安とされている.しかし,日本企業に関する限り,生産ライン当たり,あるいは基本車種(プラットフォーム)当たりの最小最適規模は縮小傾向にあり,実際には,これより小さくても競争力を持つモデルや生産拠点は存在する.それは,モデル間での車台(プラットフォーム)や部品の共通化,形状要素の共通化,生産設備の汎用化・低コスト化,金型・溶接治具などの簡素化・低コスト化,1プロジェクト当たり開発工数の削減(開発生産性の向上)などの総合的な成果であり,この点で日本企業は欧米に対して優位性を持っている.
P.288

「最小最適規模」の概念はものすごく重要だと感じた。
ある程度まで行き着くとそれ以上は一緒、という話。
買収してでっかくなってもそれ以上効率化なんて無理よ、という状況はありうる。

日本のM&A―企業統治・組織効率・企業価値へのインパクト

日本のM&A―企業統治・組織効率・企業価値へのインパクト