ラグジュアリーのなんたるかをまとめた一冊。
ラグジュアリーってわかっているようでわかっていないもんだとこの本を読んで気づいた。
かなり一般的なマーケティングの理論では説明できない特殊な形。
そして高級品=ラグジュアリーってのもちょっと違う。
その辺の違いとかを丁寧に整理しているので、一般的なマーケティングのいろはを学んだ上で、
読んでみると違いが面白い。
ただ、ちょっと訳がぐにゃぐにゃしているのが難点。
おそらく、原文もややこしい言い回しをしているのだと思う。
まぁ、おフランスってそんな感じよね。
ラグジュアリー戦略―真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメントするか
- 作者: ジャン=ノエルカプフェレ,ヴァンサンバスティアン,Jean‐No¨el Kapferer,Vincent Bastien,長沢伸也
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2011/01/28
- メディア: 単行本
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ラグジュアリーの起源
人類の夜明け以降、人々は社会を形成し、支配勢力が生まれ、その支配勢力に特有の物品(objects)や象徴、生活様式(lifestyles)ができた。こういった支配勢力と彼ら固有の象徴や物品の出現こそが、我々が探し求めているラグジュアリーの起源である。この分析を受け入れるなら、ラグジュアリーとは人類とその社会生活の一部分ということになる。
P.18
ラグジュアリーは社会の階層化と常に関係がある。
かなりプリミティブなものだし、文化そのものと言えるかもしれない。
次の四つの推進力がラグジュアリーに作用していることがわかる。すなわち、自由平等化(訳注:あらゆる人が平等にさまざまなものを楽しめるようになってきたこと)、消費力の増大(訳注:自分のために使う時間やお金が増えたということ)、グローバル化(訳注:世界中のものが手に入るようになったこと)、そしてコミュニケーション(訳注:情報化で世界中の情報が手に入るようになったこと)の四つである―これら四つの推進力すべてがスロットル全開で連動して作用するとき、ラグジュアリーを空前の水準にまで推し進める。
P.32
自由と平等が階層化の記号としてのラグジュアリーを推進するなんてなんとも皮肉な話。
でも、そういうもんだよな、と思う。
社会階層なしでは、生来は社会的存在である人というものは、すべてのものが差異化されないことによる社会的混沌と混乱を避けることができないのだ。
(中略)
ラグジュアリーは、そのとき、社会階層化を創り直す(recreating)基本的機能を持っている。その上、民主的な(democratic)やり方で階層化する。つまり、誰もが自分自身の夢―新たな種類の渇望や自由―に応じて(ある時点までに)自分の社会階層を創り直すことができる。
P.36
お国柄なのか、ラグジュアリーという題材がそうさせるのか、
ビジネス書とは思えない人文、社会系の思索がちらほら。
ヨーロッパの白人が日焼けしたがる文化についても言及されて、
そういうことか、と納得。
歴史的に、「シックな(chic)」ヨーロッパの女性たちの肌の色は、自由に使える時間を持っているというラグジュアリーをひけらかすための標(sign)であった。
P.38
日焼けできることがラグジュアリーなのね。
ラグジュアリーは人間によるもの
ラグジュアリーブランドは真価のわかる顧客に支えられている。
この基盤が崩れてしまうと、たとえ売り上げが伸びていようともラグジュアリーとしては崩壊する。
ラグジュアリーブランドとは、そのブランドの文化を十分理解し、そのブランドの世界やそのアイデンティティ、そしてその哲学の真価を評価している、ブランドに忠実な顧客を最大の中核として支えられているのだ。
P.40
ラグジュアリーは、物品であれサービスであれ、人間が強く関わった中身を持だなければならないし、大間に起源がなければならない(カール・マルクス(Karl Marx)が価値と労働について言ったように、発見して掘り出すのに大変な労働を要するから金やダイヤモンドはラグジュアリーなのであり、高い価値があるのだ)。すなわち、ラグジュアリー物品は手作りされなければならないし、ラグジュアリーサービスは人間によって提供されるべきものなのである。
P.41
そしてこれがラグジュアリーを運営していく上でとても重要な概念。
人間によって提供されなければいけない。
なぜラグジュアリーは対面販売なのか、すべての原点はここにある。
一般の消費者向け製品は、機械で大量生産された製品で、コンビニエンスストアやデパート、カタログを通して、あるいはインターネット上で売られているものだとすると、これに対してラグジュアリー製品は、手作りされ、人から人に対面販売される(sold by individual to another individual)。この顕著な対比をほとんど誰もわかっていないのだ!
P.48
individualからindividualへ。
匿名多数ではなく、個人から個人へ。
ファッションとラグジュアリーは違う
ここはすごく誤解されるところ。
自分も読むまでは区別がついていなかった。
ややこしいのは、ラグジュアリーのメゾンの中にも
ラグジュアリーとファッションが混ざっているから。
ファッションというのは人工的に差異化(differentiation)を創り出す。しかし、それは今度は、ラグジュアリーにみられるような「垂直的な(vertical)」差異化の替わりに、「水平的な(horizontal)」差異化である。
P.60
もう、完全に別物なのです。
従って結論はシンプル。
ラグジュアリーブランドの経営にはマーケティングの法則のほとんどすべてを忘れる必要があることである。巷で行われているマーケティングは普通のブランド、プレミアムブランド、そして高い品を売ること(trading up)には、とても上手く適用されるかもしれないが、ラグジュアリーには適用されないのだ。
P.109
そう、一般的なマーケティング理論では説明できない。
むしろ、それをやってしまうとラグジュアリーブランドは立ちいかなくなる。
そしてラグジュアリーは比較級ではない、という説明が非常に納得。
比較対象が存在しないことこそがラグジュアリー。
ブランドの価値
ブランドは、その真の値打ち(worth)が貸借対照表(balance sheet)上に数字で表れることはけっしてない。
P.395
これも当たり前っちゃ当たり前なんだけど、すごい話だよな。
逆に財務諸表の数字しか見られないやつは失敗する。
最も多い誤りとしては、税込利益(before-tax profit)を改善するために、「イメージ経費(image expenditure)」、特にコミュニケーション経費の無残な削減である。ブランドカを弱めてしまうこの結果は、会計上は早くても翌年までは現れない。それゆえ最初の年は非常にプラスの効果を出せたように見える。というのも、報いはそう早くはやって来ないからであり、2年目はこの出費(expenses)をさらに減らしたいという誘惑があまりに強いので、投資家たちは抗えない……このときこそ、すべてが崩壊する。なぜなら、2年目の年度末の販売量の減少と利幅の下落は、最初の2年に節約した金額とは比較にならないほど大きい。
P.405
この恐ろしさはなんとなくわかる。
通販事業において新客獲得コストを絞って直近の業績を改善しても、
顧客の離脱が新客で補えなくなり、顧客の全体数が減少。
気がついたときにはもう手遅れ、ってのとまったく同じ。
その業界のビジネスの特性がわからない人ほどやってしまう間違い。
Eコマースとラグジュアリー
ラグジュアリー製品をインターネット上で販売することは非常に危険である。それは、普及をあまりに急激に促進し、あまりに多くの無資格者(non qualified people)に製品をあまりに容易に手が届くようにすることによって、そのブランドの「夢の価値(dream value)」を急激に減少させる。インターネット上で自由に売られている製品はもはや「ラグジュアリー製品(luxury products)」とは見なされなくなり、「ラグジュアリーブランドの入門製品(entry products of a luxury brand)」と見なされるのである。
P.355
無資格者への販売拡大はブランドの価値を減少させる。
ティファニーがシルバーアクセでティーンエイジャーから大人気になったのはまさにこの事例。
売上は拡大したが、子供のころに買ったブランドになってしまった。
Eコマースは確かにラグジュアリーの大原則からするとかじ取りが難しい問題。
対面販売とは正反対だし。
とにかく、ラグジュアリーとは特殊な世界。
ブランド力だのブランド価値だのブランディングだのと
わかったような言葉が使われているけれど、
その実、ラグジュアリーの世界は知れば知るほど特殊。
それは一般的なマーケティングの概念や理論では説明できないという意味で特殊であり、
非常に面白い領域なのだと改めて感じた。
研究の余地もたくさん残されている気がする。
「ラグジュアリーにおける4P」のP を一つや二つ取り入れた戦略を実行して、他の「P」を従来型の方法でマネジメントしたままでは非常に危険である。つまり、「4P」のすべてが再調整されなければならない。首尾一貫性(consistency)はもちろん、従来型マーケティングにおいても非常に重要であるが、しかしすべての質的側面が重要とされるラグジュアリーにおいては絶対的に必要となる。
P.456
まさにこんな状態の企業、ブランドが氾濫している気がする。
中途半端にラグジュアリーを志向し、鳴かず飛ばずなパターンが。
後ややこしいのは、それでもそれなりに売上を取り、成功しているパターンも
探せばあるってこと。で、そういう例がラグジュアリーだと誤認されているパターン。
ラグジュアリーとは何か、正しい理解と分析が必要だと感じた。
ラグジュアリー戦略―真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメントするか
- 作者: ジャン=ノエルカプフェレ,ヴァンサンバスティアン,Jean‐No¨el Kapferer,Vincent Bastien,長沢伸也
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