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意思決定を突き詰めていくと自分の価値観を問われる。ジョセフ・L・バダラッコ/決定的瞬間の思考法

正しい選択肢と間違った選択肢、つまり正解のある決断は楽。
難しいのは、どちらも正しい、でも一つしか選べない選択。
この本はそういった決定的瞬間をどのように考え、意思決定するのかがテーマ。
意思決定って突き詰めていくと自らの価値観を問われるってことがわかったのが、
個人的なMBAでの大きな学びの一つです。

ちなみにこの本、面白いのに翻訳書は絶版。
原書はまだ売ってます。

「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために

「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために

Defining Moments: When Managers Must Choose Between Right and Right

Defining Moments: When Managers Must Choose Between Right and Right



自分の中での倫理観との葛藤

「手を汚さずに統率できると思っているのか」。
このセリフは、簡単に忘れられるものではない。
含蓄があり、本書でも今後たびたび言及することになる。
しかし、当面この問いは明快でありながら、読者の不安をかき立てるような意味をもつ。
老いた共産党員の発言は、民衆の上に立って統率(政治を)する人間である以上、
ほぼ例外なく「手を汚さなければならない」ことを示唆している。
「手を汚す」とは、この場合、汗水たらして一生懸命働くという意味でなく、
道徳的な純潔を失うという意味である。
P.14

手を汚すというと犯罪的な倫理観の破綻を連想するけれど、
そうじゃなくて、あくまでも自分の価値観とかアイデンティティにおいての葛藤の話。
どういった葛藤かを次のように表現してる。

ともに正しい選択肢の間でのジレンマを抱えた状況では、結果を重視する倫理観(ミル)と、
正義と義務の倫理観(カント)とが衝突することが多い。
P.71

結果を取るのか、正義を取るのか。
最終的に正義を貫くために、多少の妥協は免れないと考えるべきなのか。
意思決定に際して、自分の中での価値観を問われるケース
(他人にとってはどうでもいいことだったりもする)は結構ある気がする。
決めるのは自分しかいないのだけど、厄介なことに大抵の場合、意思決定者は、
自分の意思決定を説明しなくてはいけない。

企業のマネジャーは、社会のなかで権限をもった人間の常として、
自分の下した決定を周囲が理解できるように説明・正当化しなければならないことである。
このような人たちの洞察力にも限界がある。
だから、マネジャーは特定の問題について、自分の倫理的本能に確固たる自信があっても、
一方的に「これが最終決定だ。自分は心の底から正しい決定と思っているし、
良心に恥じることもまったくない」、と宣言しても説得力がない。
マネジャーは自分の決定について説明し、自分の責任においてその決定にいたったという
理由を明らかにする義務がある。
P.88

非常にパーソナルな部分を含みつつ、第3者に対してロジカルに説明できなければいけない。
意思決定上、自分の中で重要だと思っているパーソナルな理由は、
第3者への説明、説得では使えないことも多い。


表現的個人主義

社会学者のロバート・ベラーは名著『心の習慣』で、アメリカ人は過去何世代にもわたり、
「表現的個人主義」という世界観を発展させてきたと述べている。
これは、「すべての個人は感情と直観の独特な核をもっており、
個性実現のためにはこうした核が展開あるいは表現されなければならない」という考え方である。
P.94

だから核を持ってないとダメなのね。
よく日本人が海外行くと自国の文化を知らない自分に反省したり、
アイデンティティを改めて考えさせられるみたいな話があるけど、
すべからく自分の価値観、核を持っていない、というか
普段そういうことを突き詰めて考えないことによるんだな、と納得。
でも、別に「表現的個人主義」がすべてだとは思わないし、
そんな人ばっかりだったら面倒くさい気もしてしまうけれど。
でも、この『心の習慣』はちょっと興味あるのでいつか読んでみたいな。

心の習慣―アメリカ個人主義のゆくえ

心の習慣―アメリカ個人主義のゆくえ

  • 作者: ロバート・N.ベラー,ウィリアム・M.サリヴァン,スティーヴン・M.ティプトン,リチャード・マドセン,アン・スウィドラー,島薗 進,中村 圭志
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 1991/05/08
  • メディア: 単行本
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考え、努力する自由

健全な倫理的本能が働くためには、思慮深く、成熟した人間性が前提、とアリストテレスが言っている。
でも、成熟した人間ってなによ?というお話。

正確な指針を求める人々にとって、アリストテレスの基準は非常にあいまいだろう。
「成熟した人間」とは、いったいどのような人物なのか。
「重要な社会的慣行」とは、具体的に何か。
どのくらい事実に注意を払えば、「真剣」に払ったことになるのか。
こうした疑問に対して、アリストテレスはまったく答えを提示していない。
アリストテレスは、このような問題は状況や個人に大きく左右されるため、
正確かつ具体的に定義することなど不可能だと思っていたようである。
基準があいまいなことに失望する人もいるだろうが、あいまいなのでかえって自由を感じる人もいる。
基準が漠然としているからこそ、自分が何者であるか、
どういう自分になりたいのかを考える自由が与えられる。
また、自分が最も大事にしているものを感じ、行動を起こす自由、
果たすべき役割を明確にし、その実現に向けて努力する自由が与えられるのだ。
このような自由は、もちろん正しい選択肢どうしをめぐる葛藤を解決する
枠組みを与えてくれるわけではない。
しかし、その枠組みを見出すための、重要な第一歩にはなる。
P.98-P.99

考え、努力する自由。
正解がないからこそ、考える、というのは経営にも通じる。


いつも見られている

「多くの企業幹部が見逃しがちだが、上司と部下の間には緊迫した無言の関係があり、
部下は上司を常に観察している。なぜなら、部下は上司の覚えをめでたくすることで昇進し、
高い給与と地位を得たいと考えているのだから」
P.118

外資ほどではないけれど、これは日本も同じ。
でも、外資って実力主義みたいなイメージあるけど、
実態を聞いてみると、日本企業よりも上司の顔色伺いや政治がモノを言う所もあるみたい。
まぁ、完全に人事権握られてるからね。


自分の倫理観を満たすことがただの自己満足に終わることもある

つまり、アダリオは、決定的瞬間とは長くて複雑なプロセスの一局面にすぎないことを
理解していなかったのだ。残念ながら、アダリオはそこにいたる地ならしの作業を
ほとんどしていなかった。その後、危機が現実に起こると、その問題の本質がスケジュール調整の問題や、
対人関係のもつれにあると誤解し、一度みんなで腹を割って徹底的に話し合えば、
だれもが彼に賛同し、「家族にやさしい」企業文化には、敬意を示すものと思っていた。
アダリオは、組織の決定的瞬間についての三番目の基本的な問いを
しっかりと考えることができなかったわけである。
その三番めの問いとは、「自分が大切に思う価値観が、組織にとって真理となるように
プロセスを全体としてうまく組み立てたか」である。
P.176

子育てしながら働く女性を雇ったけれど、別の部下から彼女には無理だから解雇してくれと
頼まれた、さてどうしようみたいなケース。
このケースの主人公アダリオは家族にやさしい企業文化を体現するべきと考え、
話し合いによる解決をしようと考えるのだけど、悩んでる間に、
部下がさらに上の上司に直訴して、その母親は解雇されちゃいましたっていう話。
現実はままならない、リアルな事例だった。

ウォルターズとアダリオの意見の相違は、人生や仕事、倫理についての
基本的な前提が根本的に異なっていることを象徴しているのかもしれない。
対立がここまで深刻になると、会社という組織のなかでは勝ち残りをかけた争いが起こる。
このような世界では、単純で、人を感激させられるような、
正しい行動のみをよしとするだけの倫理観は自己満足にしかならない。
マキアヴェッリが非難するのは、倫理の理想を「想像の世界」に求めるだけで、
現実の世界で何ら行動を起こせないリーダーである。
P.178-P.179

まぁ、この結論は現実のシビアさをよく表している。
倫理の理想を追い求めること自体は否定していない。
でもそれを想像の世界に求めるだけだと、ただの自己満足。
現実でのアクションを通じて実現していかないと意味ない。
マキャベリ君主論は知ってるけど、ちゃんと読んだことはない。
これも一度ちゃんと読んでみたら良いのかもしれない。

君主論 (岩波文庫)

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新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

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「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために

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Defining Moments: When Managers Must Choose Between Right and Right

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