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統計的な定量研究流行ってるけど、事例研究ってすごいぜ!って言う話。 井上達彦/ブラックスワンの経営学

世界の経営学のトレンドが定量データを使った、統計的な解析にシフトする中、
事例研究の価値とその手法をまとめた良書。

世界のトレンドが移ってるんだよ、日本遅れてるぜ!みたいな話をば~んとぶち上げたのが、
入山章栄氏のベストセラー「世界の経営学者はいま何を考えているのか」

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

今では入山氏も早稲田に移り、井上氏とは同僚に。
主張は一見違って対立してんのかしらと思うけど、
あとがきによると井上氏と入山氏は本書に関しても意見交換しているみたい。

経営学の分野で国際的に評価の高いAOM(Academy Of Management)が発行する
学会誌、AMJ(Academy Of Management Journal)に掲載された論文の中から、
毎年1~2本受賞するという最優秀論文賞の受賞論文を元に、
事例研究の可能性と、そのお作法を解説してくれる。

超一級の事例研究とはどういったものなのかに触れておくことは有意義。
日本の場合、事例研究というと企業研究のイメージが強いが、AOMの事例研究は、
企業名は匿名で、あくまでも「事例」が主役。
もちろんそこまで腰の座った研究ができる人はごく限られているのだけども、
良質な事例研究は、もうそれだけで読んでいて面白いと言うのも発見だった。


通説に反する、新たな価値の提供が評価される

「小さな変化が積み重なるだけでは、「抜本的な変化(完全なる変容)」(radical change)には至らない。

この通説の代表格は、「断続的均衡モデル」と呼ばれています。断続的均衡モデルというのは、長期にわたる漸進的な変化の後に、既存の枠組みを壊す不連続な変革が続くというモデルです。背後には、不連続に変化する環境に適応するためには、組織も連続的かつ漸進的に変化するのではなく、戦略、組織構造、プロセス、マネジメント、人材などを同時に変革させる必要がある、という考えがあります。
P.64

ある教会の小さな変化が相互に作用しあって抜本的な変化に
結びついた事例を丹念に追いかける研究。
これって、これまでの通説に反する現象なのだが、
何が起きたのかをつぶさに整理していくことで、新しい組織変化のパターンを描き出している。

そして事例研究のお作法の話も。

インタビューは録音し、書き起こしを行っています。そして、各インタビューに2人が同行し、インタビュー後に事実と印象を互いに確認し合いました。
記録の取り方は、事例研究の権威として名高いスタンフォード大学教授のキャサリン・アイゼンハートのルールに従っています。
・24時間以内に詳細なインタビューノートを作成する。
・インタビューから得られたデータは、すべて漏らさないようにする。
・それぞれのインタビューノートを、調査者の全体の印象から結論づける。
P.77

キャサリン・アイゼンハートのルールっていうもの自体知らなかった。
恐らくその人の著作と思われる本が1冊だけ邦訳されていたのでちょっと読んでみたい。

変化に勝つ経営―コンピーティング・オン・ザ・エッジ戦略とは? (トッパンのビジネス経営書シリーズ)

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人がいるから、何もしない

1964年にニューヨークで「キテイ・ジェノヴィーズ事件」が発生しました。
その名の女性が「刺されたの。助けて」「殺される」と叫び声を上げながら逃げ惑っていたのですが、命を奪われるまでの35分間、誰一人として警察に通報しませんでした。
これはニューヨークでも「ありえない」ことです。
P.90

この事件のことは、何か他の本にも書いてあった気がする。
ダニエル・カーネマン?だったかな。うろ覚えだけど。

人は自分の行動を決めるときに他人の様子を見るということ、そして、他者の存在によって責任の分散が生じるということを見いだしました。そして、他者の存在によって自らの行動が影響されるというこの現象を「傍観者効果」と名付けました。彼らは自分たちの研究論文でキティ・ジェノヴィーズ事件に触れています。
「人がいるから何もしないのではなく、人がいるからこそ、誰も何もしない」。
これが彼らが示した結論です。実験室実験の強みは、何と言っても脈絡のコントロールにあります。ラタネとターリーの実験例でも、同席する他者の有無とタイプ以外はすべて同じように統制されているわけですから被験者の行動の違いを生み出した原因は「他者の行動」だと推論できるのです。
P.94

どうしても他者の行動に影響されるって言う話。
こういうことも知識として知っておくことで、仕事にも役立つ気がする。
影響は悪い方に出ることもあれば、良い方に出ることもあるはずなので、
そこをコントロールしようと言う試みは効果をもたらす可能性あるはず。


矛盾しているように見える現象が面白い

「慣性緩和説」(本書での呼称)を支持する研究者は、脅威を知覚することをきっかけに、戦略や組織の見直しが促されると言います。業績が悪化することで、戦略を変えようという気運は高まると考えられるからです。確かに、順風満帆の環境では、人はなかなか「変わろう」とは思わないものです。
これに対して、「慣性強化説」(本書での呼称)を主張する人たちは、脅威を知覚することが管理の強化をもたらすと考えます。集権化が進み、手続きが形式化・標準化され、実験的な行動は抑制されてしまうのです。ある研究によれば、脅威に駆り立てられると損失を怖れ、新しい機会に目が向かず、既存の強みに固執するようにもなると言われます。
このような見解の相違が生まれるのは、なぜでしょうか。
ギルバートは、「何についての慣性か」をしっかり整理していないから相違が起きると指摘します。ある種の慣性は脅威によって緩和されるのですが、別の種の慣性は脅威によって強化されてしまう。だから、どちらに注目するかによって見え方が異なる、というわけです。
P.101

まったく真逆の見解が両方成立しうるっていう解を導くのは、
お話としてもとても面白い。
全然畑の違う話だけど、物語の主人公ってどういう存在か、という定義で
「AなのかBなのかで悩んでいる時にCという解決策を提示するのが主人公」って定義した人がいて
凄くなるほどね、って思ったことがある。


ありえない結果にこそ真摯に向き合う

どんなに「もっともらしい」仮説でも、その通りにならないことはあります。大切なのは、そのときに「ありえない」と混乱してしまうのではなく、その後、どのように研究を立て直すかです。最もまずいのは、意識的あるいは無意識的に、どうにかこじつけようとすることでしょう。「こう解釈すれば仮説通りだといえるかもしれないので、このことは無視しよう」という具合です。逆に、最も望ましいのは、仮説の検証に不利であっても事実と向き合い、本当の原因を探ることです。
P.184

これって研究においてはもちろん、仕事でもそうだと思う。
通説と違う動き、データに着目することが新たな発見に繋がる。
人は無意識のうちに自分の中の当たり前に縛られてしまうので気をつけたい。