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ユニクロは凄い企業だと思うし、柳井社長も名経営者だとは思うけれど、それでもこういった実態を潰せないというのはものすごくリアルで学びの多い話。 横田増生/ユニクロ潜入一年

タイトルそのまんま、ユニクロにアルバイトとして潜入したルポ。
一代でグローバルに展開するSPA企業として大成長したユニクロは、
ビジネススクールにおいても注目される輝かしい企業の筆頭。

社長の柳井さんはカリスマ経営者としての世評も高い。

そんな輝かしい企業の実態を調査するべくの潜入調査なのだが、この潜入には前段がある。

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年

潜入の経緯

元々横田氏はこの本の前に1冊ユニクロのブラックな実態を暴露する
ユニクロ帝国の光と影』を上梓している。

ここで暴露されたサービス残業などのブラックな実態に対して、
柳井社長は激怒、事実と違うと文芸春秋名誉毀損の訴訟を起こしている。

さらにユニクロはブラックだと言う批判に対して、
柳井社長はとあるインタビューで
そういった批判をしてくる人はユニクロのことを全然わかっていない、と
「うちの会社で働いてみてほしい」と発言。

これを柳井社長からの招待状だと考え一年の潜入取材を敢行した、という経緯があるのだ。

まぁ、口では働いてみろと言っても素直に正面から働きに行って採用してくれるわけもなく、
著者は離婚し、再婚して妻の姓になると言う合法的改名(!)をした上で、
ユニクロのアルバイトに応募、正規の採用ルートを経てアルバイトとしての勤務が始まる。

ブラック批判に関して

ユニクロのブラック批判は主に国内店舗のサービス残業の実態や、
発注先の海外工場の劣悪な労働環境などに批判の矛先が向いているのだが、
今回潜入ルポでフィーチャーされるのは店舗運営の実態だ。

ちなみに、前著に対して事実と異なるとして名誉毀損の訴訟を起こしたものの、
裁判でユニクロは敗訴、記事の内容に虚偽はない、という判決が下っている。

ただ、色々ありつつもユニクロが改善しようとしていることもわかる。
ただ、改善し切れていない実態があることもまたわかる。

店舗のサービス残業はブラック批判に晒されて当然だと思うのだが、
工場を持たないファブレス企業に対して、海外の発注先工場の労働環境問題を
どこまで責任を持たなければいけないのか、という話はあるよね、と思う。

そもそもそういった責任を抱えたくないが故のファブレスという経営的選択でもあるわけで。

しかしアップルしかり、ユニクロしかり、企業の規模が大きくなり、
巨額の利益を上げるようになると、その利益が搾取によって生まれているのではないか、という目で見られるのは確か。
巨大企業としての社会的責任として批判に晒されてしまうと言うことなのだろう。

企業の社会的責任、CSR活動に関して

本書では柳井社長の発言として、CSRも企業にとってプラスになるCSR活動しかやらない、という趣旨の話を紹介している。
柳井社長自身を本質的な社会的責任を果たそうと言う気持ちのない人、吝嗇なイメージに誘導するような引用だと思ったが、
CSRに対して明確に言い切っている姿はむしろ好感が持てる。

企業のCSR活動はただの寄付行為、ボランティアとは異なる。
逆に企業にとってもメリットがあるのだ、と判断できる活動をしているのであれば
その取り組み自体もゴーイングコンサーンなものになる可能性も高まる。

企業もまた継続性がなければならず、ビジネスとしての判断が介入しない行為をCSRと喧伝しても、
逆に偽善的にうつるんだよな、というのが個人的な考え。

現場にとっての柳井社長

ユニクロという巨大な帝国のオーナー経営者とは現場にとってどんな存在なのかが非常に気になっていたのだが、
毎週の部長会議での柳井社長の発言が全店舗に張り出され、アルバイトも含め全員読める状況にあるらしい。
こういう、実際働いてみないとわからない話は面白い。

末端まで声を届けようとするその仕組みがあること自体はなるほどね、という感じだったが、
本書で紹介されている発言の内容に関しては、そこまで現場寄りのマイクロマネジメントではないな、という印象。
やはり大局的な話にはなるわな、という感じも非常に面白かった。

そして、この部長会議で直接声を届ける姿や、末端への浸透作、
絶対的な権力者であり、トップダウンの体質などは読んでいて
セブンイレブン鈴木敏文元社長を想起した。

digima.hatenablog.jp

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なんか似てるなと思ったら本書でも同じことに触れている箇所があり、やはりという感じ。

ただ、鈴木敏文はもっと現場よりなこだわりを持ち続けていた印象がある。
お昼は毎食自社商品とか、新商品全部試食してるとか、
もっともっとマイクロマネジメントの印象。

まぁ、もしかしたら柳井社長もものすごくマイクロな部分があるのかもしれないが、
本書で取り上げられているようなチラシの内容などにダメを出す姿は、
そこまでマイクロマネジメントの独裁者という印象でもないかな、とも思う。
鈴木敏文の弁当エピソードのほうが強烈。

トップがどこまで把握できるのか問題

本書でも指摘しているが、柳井社長が問題をどこまで把握できているのか、なんだよね。
サービス残業の実態も、把握できているのかどうか。
どんなに制度上禁止しても、タイムカードの時間だけ見てたら実態は見えてこない。
柳井社長にはサービス残業は撲滅したように見えてしまっていないか、ということ。

・実態が残っていても、制度として禁止しているから知らない。(まぁあるんだろうけど、見てみぬふり)
・ちゃんと改善しろと指示したし、本当にサービス残業は撲滅できた
・まだまだ撲滅できていないから対応を急がねばならない

社長の認識はどれなんだろう?

どんな組織でも上に上がれば上がるほど、現場の実態は掴みにくくなる。
本人が望んでも、層の厚い中間管理職にとって不都合な真実が現場には山積みだったりするから。
正しい現状認識からしか正しい判断、正しい行動はうまれない。

現場に寄り添うことだけが正解だとも思わないのだけど、
一代で成功した(つまり現場のこともバリバリわかってた時代がある)企業のトップが
いま見ているのはどんな風景なんだろうな、と思いを馳せた。

ユニクロはすごい企業だと思うし、柳井社長は名経営者だとも思う。
でもたたけば埃も出てくるし、成功企業にも常に課題はあると言うことでもある。
名経営者の下に優秀な人材も揃っているはずなのに、それでもこういった実態を潰せないのである。


一年に及ぶ潜入記録はリアルな姿を切り取っており、実態をこうして読むことができたのは非常に有意義。
もしかしたらお怒りなのかもしれないけれど、柳井社長もフラットに読んでみたら、
得るものが大きいんじゃないかな。
自分だったらとりあえず怒ったふりするかもしれないけど、内心感謝するな。
そしてこういう耳の痛い、直視したくない現実をレポートしてくれる機能を
どうやって社内の中で仕組み化していくかをちゃんと考えたい。

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年