著者は駒澤大学の准教授、硬いタイトルと分厚さに躊躇う人が多そうだけど、
予想に反して内容はとても読みやすく平易に書いてくれている。
AI全般のお話とそれが新たな産業革命に繋がると言う見立て。
そして中国経済の爆発的な成長が実現するのではないか、と言う予測に基づき、
中国の経済史も概観しているのでこれだけの分厚さになっていると言うわけ。
- 作者: 井上智洋
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2019/05/24
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リオリエント
ヨーロッパ中心の歴史観を見直そうと言うグローバルヒストリーと言う考え方がある。
ヨーロッパで銃や大砲が戦争で使われるようになったのは、15世紀のことだ。それにもかかわらず、つい最近まで歴史学者の間でさえ、銃、大砲はヨーロッパ人が発明したものと考えられていたのである。
P.43
こういった誤認識を訂正していくことで、ヨーロッパ中心主義からヨーロッパを相対化した上で、地域間の相互関係を世界的視野から見る。
アンドレ・グンダー・フランクの『リオリエント』が紹介されていたのでちょっと読んでみたい。
- 作者: アンドレ-グンダー・フランク,山下範久
- 出版社/メーカー: 藤原書店
- 発売日: 2000/05/30
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リオリエントには再びアジアの時代になると言う含意も含まれているのだとか。
アジア(特に中国)は再び経済でも中心に戻りつつある。
本書によると経済面でヨーロッパが中国を凌駕するようになったのは1800年を過ぎてから。
そうなると中国の没落はたかだか2世紀程度の話になる。
日本が後進国に
科学技術力が重要なこの時代に、国立大学への研究費交付金は毎年削られている。
一方で優れた研究課題に対して予算を配分する競争的資金は増えているらしいが、何れにせよアメリカや中国の大学に比べ予算の規模が違う。
リゾームは今なお有効な概念
経済の本でドゥルーズの『千のプラトー』が出てくるとは思わなんだ。
ここで提示されるリゾームという概念は、ツリー状の階層構造ではなく、中枢(コア)や回想なしに複数のユニットが相互に連結した構造のこと。
ネットワークはまさにリゾーム的だと言える。
自分の頭の中もリゾーム的なんだなぁ、とこれを読んで改めて思った。
やや強引な感はあるけれど、ニューラルネットワーク、ディープラーニングもリゾーム的だというのだけど、
ディープラーニングは層をなしているから階層的なんじゃないかしら、とも思ったけどな。
- 作者: ジルドゥルーズ,フェリックスガタリ,Gilles Deleuze,F´elix Guattari,宇野邦一,田中敏彦,小沢秋広
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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- 作者: ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリ,宇野邦一
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逆転クオリアと哲学的ゾンビ
人は他人のクオリアを体験することはできない。(P.142)
リンゴを見て「緑」に見えていたとしても、その緑色がその人にとっては「赤」なので。
物理的には全く人間と同じだが、意識もクオリアも持たない存在を仮定した時、
振る舞いが人間と同じで泣いたり笑ったりするが、喜びや悲しみは感じていないとしても、
我々には見分けがつかない。
意識やクオリアを機械が持てなかったとしても、それ自体が機械が人間的に振る舞えない理由にはならない。
平均は終わった
アメリカの格差社会の例として出てきた話だけど、
平均と中央値の乖離が大きい(中央値が平均を大きく下回る)状態に所得格差があるのだという。
これは一部の富裕層への富の集中を象徴しているのだけど、
中間層が崩壊し、平均値に意味がなくなってしまっている。
平均は終わった、というのはタイラー・コーエン『大格差』に出てくるフレーズらしいが、
なかなかのパンチラインだな。
- 作者: タイラー・コーエン,若田部昌澄,池村千秋
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- 作者: タイラー・コーエン,渡辺靖(解説),池村千秋
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そして調べてみたらこの人、『大なんちゃら』がお好きなのね。
気が向いたら読んでみるのも良いかもしれないけど、格差社会の言説は少々聞き飽きた感はあるな。
- 作者: 井上智洋
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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