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業界の概要把握には便利。日本出版学会編/白書出版産業2010

出版にまつわる様々な現状をまとめた白書。
この業界に何が起きているのか、ざっくりとしたファクトを整理するには便利。
ただ、やっぱり定量データの整備、研究が不十分な気がする。

白書出版産業 2010

白書出版産業 2010


先進国でも書籍売上高が伸びている国は多い。

90年代からの情報ネットワーク化の著しい進歩,デジタル情報技術の応用,オンライン書店という新チャネル・新業態の登場と成長,客注品のリードタイムの改札大規模小売店舗法の大幅緩和・撤廃による大型書店の大量出店,書店総売場面積の増加,著作物再販適用除外制度の当面存置,「朝の読書」実施校の増加,子どもの読書推進法の制定などは明らかにプラス要因であった。しかしそれらが需要創造,市場拡大,販売高増加,販売部数増加にはつながらず,また下降の歯止めにもなっていない。 08年の書籍部数返品率は42.9% で戦後2 番目,月刊誌の金額返品率は38.0 %で戦後最高を記録した。「朝の読書」の増加や公共図書館のサービスの充実などがあり読書人口は減少していないが,出版市場は縮小している。
なお,欧米主要国は書籍売上高が微増で推移しており,日本の取次経路の書籍売上高だけが長期的に下降している事実に留意すべきであろう。
P.12

まぁ、もともと国民1人あたりの読書量の平均値は多い方らしい。
が、それにしても年々読まれなくなってきているのは確か。
教育の問題も根深いのかな。


データの話

出版物の市場規模に関する諸データのなかでよく利用されるのが, 「出版指標年報」(以下『指標』)である。このデータは取次ルート(弘済会・即売卸売業者を含む)を経由した一般出版物を対象に,その流通動態を推計したものである。検定教科書,直販ルート,一般市販されない官庁出版物は含まれないため,日本のすべての出版物を対象にしているわけではない。
P.14

無いんだよね、全部の定量データ。
それはそれで恐ろしくもったいない。
Discover21とかは書店と直取引だから取次経由には含まれない訳だ。


取次の話

書店や出版社のグループ化に比べ,取次同士のハードルは低くない。2大取次による寡占化かさらに進めば,独占禁止法に抵触する可能性が出てくるためだ。公正取引委員会は,「独占状態ガイドライン」を作成・公表している。この監視対象事業分野に「書籍・雑誌取次業」が06年から含まれている。
取次同士の提携は,流通の効率化を追求できるため,産業全体に波及する効果が大きい。しかし, 法的規制を避けては通れない。
P.29

90年代に入ると取次業界では大手取次がライバル取次系列の有力書店を自社系列へ奪取する書店帳合変更競争を展開し,上位集中が進んでいる。
P.31

と、言うものの今の所規制されてない。
えげつない帳合変更競争に突入しているのだけど、
これが独禁法的にありなのかは非常にグレー。


本の価格、取引条件

国の内外価格差の比較日本と欧米主要国とで表示価格が直接生産費の何倍になっているかを比較した例がある(箕輪成男『消費としての出版』弓立社, 1983 年)。それによれば,日本の3.3 倍,アメリカ6.0 倍,イギリス6.0 倍,ドイツ5.0 倍,オランダ6 ~7 倍となっている。その結果,「日本の読者は新刊書籍を欧米先進国に比べ30 ~40 %以上安く入手している」と結論されている。なおその算出方法には各国に違いがあり,単純に比較したものでは結論を出せない。
P.37

本は、安いと思う。費用対効果で考えればもの凄く価値がある。
もっとみんな読めばいいのに。
で、諸外国と比較して単価が低い日本の本は、書籍卸正味が最も高い。
もっともそれは委託販売制度で書店がリスク取らないからってのが大きいと思うけど。

欧米主要国と比較すると日本の出版社の書籍卸正味は最も高い,すなわち書店の書籍マージンは最も低い,そして書店の支払いサイトが最も短いという特色がある。
戦前から現在にいたるまでの出版流通史において,出版物の正味やその他の取引条件問題で書店の事業者団体が何度も改善要求運動をしてきた。
交渉が決裂して共同ボイコットに発展したことが何度もある。
(中略)
90 年代からは新規参入組に対して取次が提示する取引条件はおおむね次のとおりである。
一本正味67%, 歩戻し(売り上げにたいして)5 %以内,注文品の支払保留30 %・6 ヵ月間(40, 50 %もある)。また商品の納品および返品引取りは出版社自らが行うこととされるケースが多い。新規参入組には条件払制の適用がない。またほとんどの新規参入者は,「貴社よりの返品は期限を設けず何時でも引取り,納入時の正味で速やかに入帳致します」という無期限返品・無条件返品条項のある取引約定書を結ぱされている。
P.40

返品率とコストの関係

05年11 月,出版科学研究所主催の講演会で主婦の友社・村松邦彦社長(当時)は,「弊社でいいますと,1 %雑誌の返品が下がると1億の純利益が出る」ことを明かしている。売上高が192 億円(07 年度)の出版社からすれば,いかに大きな数字かがわかる。
取次は,送品にすぐれたネットワークを全国に張り巡らせた。雑誌は,より多くの地域で一斉発売が可能となってきており,その緻密な流通システムは世界に類を見ない。その裏では,「返品率を1 %下げることで,5 億3000 万円のコスト削減につながる」との大手取次トップの発言(「文化通信」05 年10 月31 日付)もあるとおり,ここでも高返品率は体力を奪う要因となる。
P.48

返品率とコストの関係が明示されているレアな情報。


桶川SCMの処理能力

取次大手のトーハンは,07 年10 月に書籍の注文品の送品・返品を行う桶川SCMセンターを全面稼働させた。1日の処理数は送品190 万冊,返品65 万冊という能力だ。
P.48

これも資料的な意味でメモ。
続いて、取次が扱う1日の流通量。

最大手取次の日販が発表したデータで1 日の流通量を見ると,同社が09 年3 月時点で書店へ送品した書籍は1日平均225 万6892 冊,雑誌は同444 万1925 冊に及んでいる(図表2 )。
このデータは,書店の注文に応じて送られる「注文送品」と,新刊書など取次が書店を選び,送る冊数も決める「見計らい送品」に分けて集計している。流通量としては「注文送品」が約55%,「見計らい送品」が約45 %と,「注文送品」の方が若干多い。
06年から4 年間の推移をみると,書籍は「注文品送品」と「見計らい送品」の両方とも増加しており,雑誌の送品量だけが減少している。雑誌送品量が減っているのは,雑誌の販売部数が97 年以降急激に減少していることから,出版社が発行部数を抑え,取次各社も送品量を抑制していることが原因である。
P.125

上記を踏まえ、書籍流通の概要。
取次の実態がすごく良くまとまってて感動。

それまで取次は,出版社から日々納入される新刊書籍を「見計らい送品」によって素早く書店に配送し,書店から「注文」された書籍を自社の在庫か出版社から調達して書店に送品してきたが,自社では回転率のよい売れ行き良好な商品しか在庫してこなかった。 90 年代後半に各社が単品在庫を増やすまでは,大手取次であっても在庫点数は,当時の流通可能な書籍約70 万点のうち10 万点程度といわれていた。
これは,日本の取次システムが雑誌配送から誕生し,雑誌配送網で書籍を配送する「見計らい配送」として発達した結果であろう。
このことによって,取次は極めて低コストの流通を実現してきた反面,「客注品」(書店店頭で顧客が注文した商品)の到着速度が極端に遅いといった問題が常に指摘されてきた。
これに対して,オンライン書店はインターネッドヒに在庫の有無を公開し,顧客からの注文に応じて1 冊の本を迅速に届けることを実現した。
日本においてはアマゾン・ジャパンをはじめとしたほとんどのオンライン書店が,取次から商品調達しており,こうした取次各社はオンライン書店の要求に対応するために70 万~80 万点の在庫を持った流通センターを開設した(itl) 。
この変化を当時の取次幹部は「ロット流通から単品流通」と表現しており,川上の論理で送り込む流通から,顧客のニーズに対応する流通への転換だったと見ることができる。また,97 年以降,取次・書店ルートにおける書籍・雑誌販売金額が減少してきたことも,取次の流通に対する考え方を大きく変化させている。
取次システムは定期制があって流通効率がよい雑誌流通では利益を上げているが,毎日数百点に上る新しい商品が納品され,単品流通が発生する書籍は不採算部門であった。
そのため,雑誌の販売部数が大きく減少することで収益性は悪化,書籍部門の不採算体質を見直さざるを得なくなっている。
その場合に注目されるのが,常に40 %前後に達している書籍返品率の改善である。
かつて取次の幹部は返品率を1 %下げれば5 億3000 万円のコストダウンができると指摘) しており,市場が拡大しない中で,返品率の減少による利益創出が課題とされている。
日販が01 年に開始した「www.project (トリプル。ウィン・プロジェクト)」は,書店店頭の販売データを自社,そして出版社と共有し,実績に応じた商品流通を実現しようとしている。 08年にはこの仕組みを踏まえて, 書店や出版社との間で,売上と返品の実績に応じてインセンティブとペナルティが発生する新しい契約の締結を開始した。
さらに,08 年に物流拠点である「王子流通センター」を全面改装し,書店店頭の在庫状況に応じて商品を迅速に提供できる体制を構築している。
一方の大手取次であるトーハンも,07 年に新物流拠点「桶川SCMセンター」を稼働。
ここに送品,販売(書店店頭の販売データ),返品などのデータを集約し,過不足ない流通体制を整備しようとている。
P.126 - P.127

googleに対する見解

フェアユースの考え方にたって「みんなのため」には図書館の蔵書を著作権者に無断でスキャンすることが許され,その書籍データペースを独占的に所有・活用できることになれば,それによって書籍の流通は一私企業によって管理されることになる危険性である。
出版の自由の基本には,出版の多様性維持があり,そのためには国家はもちろんのこと社会的に情報が独占・管理されることは基本的に好ましいことではない。
そうした原則に則った場合,今回のグーグルの構想は単にビジネス上の反トラスト(独占禁止に反する商行為)であるというにとどまらず,自由への脅威になりうるのである。
P.167

google好き嫌い以前に情報の管理が一極集中することの危険性の話なんだよな。


白書出版産業 2010

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