出版市場のシュリンクが止まらない。
年明け早々話題となったこのニュース、見ていてなんだか残念な気持ちになってしまった。
この流れはまだまだ止まらない、
というかますます加速するのではないか、と思う訳です。
もう10年以上前から、出版市場は減少トレンドに入っていて、全く抜け出せそうにない。
出版不況だ、斜陽産業だ、と出版社のお偉いさんはぶつぶつ言いながら、特に何もしようとしない。
で、シュリンクし続けていく出版市場の中で、特に雑誌が売れなくなってきている。
でもね、売れないだけじゃなくて、儲からない。
もっともっと雑誌がおかれている状況は厳しいのです。
この前読んだビジネスモデル・ジェネレーションに当てはめて考えると
マルチサイドプラットフォームなんだけど、
バランスが歪みまくって身動きとれなくなってるんだな、と思った。
- 作者: アレックス・オスターワルダー,イヴ・ピニュール,小山龍介
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2012/02/10
- メディア: 大型本
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ファッション誌はマルチサイドプラットフォーム
複数の顧客セグメント間のプラットフォームを運営することで、収益が得られるモデル。
ファッション誌の場合、読者とクライアント、2つの顧客が存在している。
- 読者から得られる売上=雑誌の販売売上
- クライアントから得られる売上げ=広告売上
ざっとまぁ、こんな感じのビジネスモデルなんだけど、
これが歪みに歪みまくってる訳です。
原価率は100%越え
あんなに分厚い雑誌が600円くらいで買えちゃうのっておかしいと思いません?
情報が無料で手に入るこのご時世、もはやそういう感覚もなくなってますかね。
それでもあれだけのボリュームの雑誌を作るには相当お金もかかります。
で、付録も付けて、とかやってると、
見事に越えちゃう訳です、原価率100%を。
だから50万部刷って50万部完売しても、利益なんて出ないの、今のファッション誌は。
すべてがそうとは言わないけど、ほとんどそうです。
むしろ部数が伸びれば伸びるほど、収益は悪化する。
600円で売るものに700円、800円かけてるんだからね・・・
じゃぁどうやって儲けようと思ってるの?
ここで、広告収益の話が出てくる訳。
原価100%越えで確実な赤字分をひっくり返してあまりある広告を雑誌は求める訳。
例えば、1億円の赤字確定のところに、2億の広告とってきて、
トータル1億のプラスにするのだ!ってこと。
ちょっと式にしてみますと・・・
まず、1冊700円のコストをかけて
コスト700円*20万部=1億4000万円
で、7割売れたとき販売売上は
20万部*0.7*600円=8400万円
この時点で5600万円の赤字。
で、この号に6000万円の広告が入れば、最後に逆転ホームランで400万円黒字になります。
ここでは話を単純化するために、取次への卸率とかは無視してます。
現実はさらに取次と書店の取り分がさっ引かれる。
危ういバランスはとっくに崩壊してる
これ、部数の伸びと広告売上が強い相関関係にあった時の成功モデルなんです。
部数をのばせ! 部数をのばせば広告が入って儲かるんだ!
部数をのばすためなら多少原価率あがってもかまわん!
良いものを作れば読者は手に取る! とにかく部数なんだよ!
そういう方針のもと、マルチサイドプラットフォームにおける、
読者から得られる、得るべき売上の方をどんどん削って、
(販売価格は低く抑え、内容には金をかけた)
クライアントからの広告収益への依存を高めていった結果が今。
ところが、部数が伸びれば広告がどんどん入ります、
そんな時代は、とっくに終わってる。
今さら何言ってるのってくらい昔に終わってる。
とっくに終わっているのに、ビジネスモデルは10年以上前から変わってない。
しかも情報の価値はどんどん減り続け・・・
しかも、この10年でネット、携帯の普及で情報そのものへ対価を払う意識がどんどん低下してきてる。
だって、面白い情報は無料でいっぱい見れる時代だし、
元々ファッション誌なんてなくても生活には困らない情報。
可処分所得も可処分時間もネットや携帯にどんどん取られてしまって雑誌の部数は右肩下がり。
そうなると、販売売上が右肩下がり。
となると、発行部数が同じだとリクープするために必要な広告収益は右肩上がり。
部数下げれば良いだけじゃんって思うかもしれませんが、
部数を下げると広告がもっと入らなくなるからできないのよ!という理屈がまかり通る。
売上げがヤバい、赤字がひどい。
どうする?
だから、もっと広告を入れなくちゃ!?
これが、悲惨な状況をさらに長引かせてしまった迷判断。
そして、あらゆる意味でどっぷり漬かりきってしまったクライアント依存。
辛い時期をじっと耐えていれば、、、いつかクライアントは戻ってくる。
そんな幻想もリーマンショックが吹き飛ばしてくれた、と思ったのに
まだ幻想を抱いてる編集者は掃いて捨てるほどいる。
特に頭の中が良い時代で止まってる中年のおばさん達。
それでも自分たちはわかってるつもり。
広告収益依存は問題だが、これは、難しい問題だ。慎重に考えねばならない。
そうやって思考停止し続けて10年以上抜本的な見直しはされないまま現在に至っている。
じゃあ、どうすんだ?
まず、マルチサイドプラットフォーム、両方から収益が得られるようなバランスに
収益構造を健全化することは必要なんじゃないかしら。
単純に値上げするという方法もあるし、
編集費を抑えるという手もある。
どうせ売れないんだか刷り部数自体を下げろというのもある。
そもそも無駄なコストかけすぎってのもある。
でもバランスの健全化ってのは売上バランスだけでなく、
もっとちゃんと顧客=読者の方を向けよ、ってことでもある。
常に読者のことを考えて作ってる、って口では言うけれども、
労力や時間を随分クライアントに向け過ぎていませんか?とも思う。
で、多分全部まとめてリセットしちゃえばそんなに難しいことじゃないと思う。
適切な部数に減らす、適切な原価率に戻す、
そりゃ当然売上は減るかも知れないけれど縮小均衡はするし、
まだ、赤字だったとしても今よりは絶対少なくなる。
でも、上は結局自分の代でそういうことをやりたがらない。
責任取りたくないからなんもしないで、
今まであった枠の中での努力しかしない・・・
後は、評価基準の矛盾を整理すること
もう1つ出版社内の言説でおかしいのは、
部数主義すぎるところ。
部数が多い=偉い、という文化がありすぎる。
で、そこに、にわか収支主義みたいなものが、たまーに顔を出す。
とにかく部数をのばすんだ! と言われ、
部数が伸びたら赤字が増える。
そうなると、部数は伸びたが、収支を改善しなくてはいけない、とかしたり顔で言われる。
部数を落とせば収支は改善するんだけど、部数は落とすな!となる。
既に部数と収支はトレードオフだぜ?っていう終わってる状況なのに、
構造自体を変えずに二兎を求めるこの矛盾を、
しっかり整理しないと、どうしようもないのである。