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戦略が機能しないと利益なき繁忙に陥るのだ、ということをこれでもかと示してくれる必読書 三品和弘/戦略不全の論理 慢性的な低収益の病からどう抜け出すか

売上高営業利益率で見たときに、
日本の企業の利益率はアメリカの企業に比べて低すぎる。
それは戦略が機能していない(=不全)だからだ、という主張を
様々なデータから裏付けていく良書。

企業価値とは利益率がすべてなのか?という疑問はあるのだが、
それはここで議論することではないし、本書の言いたいことはそこじゃない。

よくビジネススクールの教授などからお勧め本として
紹介されているので読んでみたけれど確かにすこぶる面白い。
学びの多い1冊だった。



戦略と戦術の違い

戦略とは目の前の戦いに勝つためのもの、と認識されがちだけど、
目の前の実戦に勝つすべは戦術。戦略は更にその上位概念。
つい作戦と戦術がどっちが上だっけ?って
ごちゃごちゃになってしまうのだけど、
過去にまとめといてよかったとこういうときに思う。


利益なき繁忙

本書で一番グサッと来たフレーズがこの「利益なき繁忙」というお言葉。
辛い。辛いけど、事実っぽいから、読んでて残念な気持ちになる。

売上高は40年間で名目上20倍以上に拡大したが、その影で事業効率が着実に悪化したとすれば、日本企業は利益なき繁忙を演じたことになる。日本経済の奇跡は豊かさの実感を伴わないとしばしば指摘されたが、その原因はこういうところにあるのかもしれない。
P.35

そして本書はこの低利益率こそが戦略不全の証だ、と主張する。
最終的に利益率も高い成果を出すのが戦略の力、経営の力なんだと。
確かに「経営の力」ってのはものすごく感じる。
現場がどんなに努力しても、それを成果に結び付けられるかどうかは
経営者の力なんだと思う。


参入障壁

利益率を高く保つためには、新規参入の障壁を築くという視点も大切。
そもそも競争は無いほうが良いに決まっている。
誰でも参入できる分野はあっという間に過当競争に陥り、
レッドオーシャン化してしまうから。
如何に旨味を独占できるか、そのために参入障壁をあげることが重要。

例えば、顧客が抱く品質やサービスの期待値を上げたり、
参入に際して必要になる一般的な投資の大きさを上げること。

模倣困難な儲け方、でないと高い利益率は維持できない!


消費者余剰

商品、あるいはサービスに対していくらの価値を認めるか、は
顧客1人、1人によってまったく異なる。
自分にとっていくらの価値があるか、いくらまで出せるか、が最高基準価格。
上述した理由により、最高基準価格は一様ではなく、人によってばらつく。
そして実際の商品価格が最高基準価格より下であれば購入に至るし、
上回れば購入は見送られる。

例えば自分の中での最高基準価格が10万円の商品が、
8万円で販売されていれば、購入に至る。
この時最高基準価格と販売価格の差が
消費者にとっての余剰=消費者余剰になる。

この時何が起きているかというと、企業の側で見れば、
10万円の価値あるものを8万円で提供したことで、
2万円の利益を取り損ねている、と言える。
つまり、消費者余剰は利益の取りこぼしであり、
隠れた利益の源泉なのだ。

もちろん、販売価格は最も高い最高基準価格に合わせればよい、
という単純な話ではない。
そこに10万円の価値を認める人が少なければ、
売上も利益もシュリンクしてしまうからだ。

ここの消費者の持つ最高基準価格を見破るすべを企業が持たない以上、
誰に対しても均一の価格で売ることを余儀なくされる。
一物一価である以上、消費者余剰は必ず発生する、と言える。

差別価格

これに対する対応策としては、差別価格の導入という方法がある。
消費者の最高基準価格は、ばらついているから、
その高低に応じた複数の価格を用意するという発想。

携帯電話の学生割引はこの典型例。
飛行機のファーストクラスも消費者の
最高基準価格の幅の広さを顕在化させる一例。

価格政策によって消費者余剰を最小化=利益の最大化をする、
という意味がある。


逐次適応の経営

経営環境が同じ企業が、逐次適応の経営をしたとき、
結果は基本的に横並びになる。

だからこそ、最初から有利な、儲かる、構造を選べ、と考えるか
逐次適応の経営では駄目、と考えるか。

構造的に儲けにくい業態に嵌ってしまっているので、
稼ぎ方自体を見直し、そこに向けて1つ1つ手を
打っていくことが必要なのだとしみじみ感じた。
その転換のビジョンと段取りこそが戦略。


異質化

例外事例に共通するのは、どの企業も競争と無縁ではないが、
正面からぶつかり合う「宿敵」がいない。
微妙に競争の軸がずれている、と言える。これが異質化。
構造の選択や参入の制限、価値の捕捉をしているように見えるが、
それは結果論だったりもする。
結果的にそう見えているだけ、ということ。
でもそこには戦略を考える上でのヒントが詰まっている。


構築の戦略論

構築の戦略論は、現実を後から追いかける事後的な説明に過ぎない。
これが帰納的なアプローチの最大の弱点。
『ビジョナリー・カンパニー』とかはこの典型。
うまくいってる企業を集めて共通点を洗い出す。
組織能力や組織文化が重要だ!
そうですか、だからなに?となってしまう。
これから構築するに際してはどうすればよいの?
という疑問に対して答えを持たない。


構図の戦略論

事業システムをうまく作るためには、その設計者にあたる人間が、当初から全体の「構図」をきちんと頭の中に持っていなければならない。これは、それをもってシステム全体が優位性を確保するところの狙いと、その狙いを実現するための手段としてのオペレーションの個々の要素のあり方と、その要素間の連携のあり方から成るものである。こうした構図の優劣が事業の命運、そして長期収益を決めてしまうと見るのが、構図の戦略論にほかならない。
P.188

これは実感として、非常に理解できる。
全体最適をちゃんと思い描けていないと、
意思決定も場当たり的になってしまう。
それってまさに戦略不全の状態。


効率の罠

トヨタのケンタッキー工場の班長の発言が深い。

班のメンバーが会社のために良かれと思っていろいろやってくれるのはよいのだけれども、彼らの気持ちを傷つけることなく、彼らの好意から出る行為が実際に会社のためになるようにすることが一番難しいと言うのである。
P.201

これは、オペレーション・マネジメントにおいて非常に重要な視点。
現場のコントロールはここまで考えてワークフローを設計しないといかん。

また、本書はトヨタの生産方式を、
効率を捨てて利益を取るから大きく儲かる、と指摘していた。
この視点は自分にとってはとても新鮮だった。


分業と統合

分業は生産性を飛躍的に高める。
ただ、分業が進めば進むほど、本当にそれを生かすために
統合が必要になってくる。

ここで言う統合は、『組織の経済学』で言うところの
コーディネーション、なんだろうな。

分業はその分業された領域内での部分最適を志向するから、
誰かが全体最適に収まるように調整してあげないといけない。
部分最適の集合が全体最適ではないのだから。


経営者は全体と部分の間を上下動する

現場が部分最適に陥ることを防ぎ、全体の統合が図れるのは経営者のみ。
視野に制限がかからず、分業の枠による役割に制限されず、
自由に動き回れるのは経営者のみなのだ!!!

個室にこもりっぱなしでも、現場に出ずっぱりでも、
戦略は機能しない。経営者は全体と部分の間を上下動することで、
はじめて統合の要件を満たすことができる!