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業界全体のダメな所とそんな中生まれて来た成功例の対比。業界外の人が読んでも面白い! 杉原淳一・染原睦美/誰がアパレルを殺すのか

日経ビジネスのアパレル業界特集が1冊の本になった。
レガシーなアパレル企業の不振と、その中でも成長する新興組への取材を通じて、
アパレル業界の現状を浮き彫りにする本。

誰がアパレルを殺すのか

誰がアパレルを殺すのか

日経ビジネスの特集には、一部本書に収録されていない記事もあるようなので、
興味があるならサイトも見た方が良いかも。

business.nikkeibp.co.jp

そもそも需給のバランスが崩れてる

1991年に15.3兆円あった市場が、2013年には10.5兆円に縮小している。
そんな右肩下がりの市場なのだが、モノの供給は増えている。

一方、供給されるアパレルの数量は1991年時点で約20億点だったが、2014年には約39億点に増えている。つまり市場規模が3分の2に落ちているのに、市場に出回る商品の数は倍増している、ということだ。
P.18

この現象、実に面白い。
出版業界も、市場はピーク時の6割だけど、新刊の刊行点数は増え続けている。
なんかシュリンクする市場の断末魔というか、似通った印象を受けた。

それとアパレル市場で特徴的なのは単価の崩壊だろう。

1991年を100とした場合の購入単価指数は、2014年には60程度まで落ち込んでいる。
P.22

色々あるけどこのエピソードは象徴的

2016年、ある大手アパレル企業の取締役会でこんな一幕があった。一人の社外取締役が会議の場に持ち込んだ3点の服は、同社傘下の別ブランドの商品だったが、違いはブランド名が書かれたタグだけ。ほかの取締役たちは、指摘されても苦笑いを浮かべるしかなかった。
P.40

結局OEM依存しきってるからブランドとは名ばかりだし、何もモノづくりしていない。
その異常事態に業界全体が慣れてしまってる。

販売員を使い捨てる

販売員は不可欠な存在なのに、抱えたくなかった。
内部に抱え込まず必要に応じて派遣してくれればいいよ、という感覚。
その気持ちもわからんではないが、販売員のしてる仕事は、
例えば付加価値のない事務処理とはちょっと違うはず。

見誤ってはいけないのは、アパレル業界は不振に陥ったから、現場がブラックになったのではない。何十年にも渡って、現場の販売員を使い捨てにする風潮を放置し、彼らの存在を軽視してきたために販売力が削がれ、業界不振の原因になったのだ。
P.67

委託販売という発明

オンワード創業者の樫山も1951年までに紳士既製服の量産体制を整え、賛美歌に由来する「オンワード」(前へ、という意味)の商標を登録した。この頃、樫山は百貨店を主な販路と見込み、当時としては画期的な「委託販売」を思い付く。一旦商品を百貨店に買ってもらうが、売れ残った商品をオンワード側が引き取る仕組みで、彼が発展して現在の「消化仕入れ」につながっていく。
P.96

今、課題の多い制度も、できた当時は画期的な発明だったと思う。
委託販売というシステムもこれをこれを当時実現した樫山さんは天才だと思うし、
そりゃあ大きくなるはずだわ、と思う。
でも問題はその後70年近く経っているのに同様のイノベーションが起きていないことなんだろうな。
業界全体が制度疲労にどっぷり浸かり続けてる。

トウキョウベースのこと

業界全体が不振に喘ぐ中、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長中なのがトウキョウベース。
経営者は潰れてしまった元百貨店の創業家一族らしい。
この人達の考え方は、アパレル業界臭がしない。
すごくフラットにビジネスやってる感じ。それで成果出てるのは素晴らしいよね。

販売員は、お客さんの「服を買う理由」の一つになれないと意味がない。そうでなければネット通販に簡単に取って代わられる。ただ、これまでのアパレル業界で販売員の給料が低かったのは仕方がない面もある。例えば生命保険の場合、お客さんが向こうから来てくれるわけではなく、営業が自分で需要を切り拓かないと売り上げが確保できない。一方、アパレル業界はお客さんが来てくれるので、どうしても待ちの姿勢になる。だからこそ社内では『販売じゃなくて、営業をしろ』といつも言っている。我々の取り扱うアパレルは嗜好品で、そもそも顧客ニーズはない。そこをどう切り拓いていくかを考えるのが『営業』だし、それが店頭で接客する販売員の仕事だ。
P.200

このそもそも顧客ニーズはないって言い切る姿勢が凄い。
でもただ置いてるだけじゃ買ってってくれる訳ない。
ニーズがないという前提から始めることで様々な知恵が生まれてくるっていう側面もあるんだろうな。

誰がアパレルを殺すのか

誰がアパレルを殺すのか